3−17 見習い護衛

 ジェニファーが振り向くと、見知らぬ2人の青年が見下ろしていた。


「へぇ〜……着てる服が上等だから声をかけてみれば、こんなに可愛らしい顔をしていたとはな」


「これは、結構な上玉なんじゃないか?」


青年たちはジェニファーを無視して会話をしている。


「あ、あの……?」


すると最初に声をかけてきた青年が尋ねてきた。


「お嬢さんは1人なのか? 誰か連れの人はいないのかい?」


「は、はい。そうですけど……」


なんとなくイヤな予感を抱きながらジェニファーは返事をする。


「そうか、1人なんだな? だったらお兄さんたちが遊んでやろう。何か美味しいものでも買ってあげるよ」


青年がジェニファーの腕を引っ張って立たせた。


「い、いや! 離して! 私、待ち合わせしてるんです!」


恐怖を感じたジェニファーが大きな声を上げた次の瞬間――



「何やってるんだ!! やめろ!!」


突然背後で大きな声が聞こえた。


「何だ!?」

「何っ!?」


青年達は驚きの声をあげて、振り返るとそこには息を切らして睨みつけているニコラスの姿があった。

その後ろにはニコラスよりも少し年上と思しき栗毛色の髪の少年もいる。


「何だ? まだ子供じゃないか?」

「俺達は忙しいんだ、さっさと失せな」


「ニコラスッ!!」


捕らえられたジェニファーが涙目で叫んだ。


「ジェニーッ!!」


ニコラスが青年たちに捕らえられたジェニファーを見て顔色を変える。


「ニコラスッ!! 助けて!」


ジェニファーは必死でニコラスに助けを求めて手を伸ばした。


「シドッ!!」

「はい!」


シドと呼ばれた少年は頷くと、青年たちに突進していく。よく見ると、腰には剣が差してある。


「何だ? ガキのくせに!」

「俺達とやる気か?」


青年たちはジェニファーを突き飛ばすと、腰に差していた短剣を引き抜いた。


「キャアッ!」


「ジェニーッ!!」


地面に倒れそうになる寸前に駆けつけてきたニコラスがジェニファーを抱きとめた。


「大丈夫? ジェニー」


「え、ええ……ありがとう」


一方青年たちはシドと呼ばれる少年相手に苦戦していた。


ガキッ!

キィインッ!!


「く、くそ! 何だコイツ!」

「ガキのくせに!」


焦る青年たちを相手に少年は無言で剣を奮って、追い詰めていた。


「ね、ねぇ……あの人、大丈夫なの……?」


ジェニファーは震えながら大人たち相手に戦っている少年を見つめる。


「大丈夫だよ、シドはとても強いんだから」


そして……。


「うわっ!!」

「ぐっ!」


青年たちは短剣を叩き落され、地面に倒れ込んだ。


「まだやる気か?」


シドは無表情で、剣を2人に突きつける。


「う……」

「わ、分かった! 降参だ! 行くぞ!」


青年たちは、まるで転がるように逃げ出して行った。その様子を見ていたシドはニコラスに尋ねた。


「ニコラス様、追いかけますか?」


「いいよ。きっと今の騒ぎで誰かが通報してくれただろうから。第一、ここへ来るまでに自警団がパトロールしていたし」


そしてニコラスは改めてジェニファーに尋ねた。


「ジェニー。大丈夫だった?」


「だ、大丈夫……」


恐怖で震えていたジェニファーだったが、ニコラスに声をかけられて返事をした。


「それなら良かった。そうだジェニー。紹介するよ、彼はシド。僕の友達だよ」


するとシドは首を振った。


「友達ではなく、専属護衛です」


「全く、シドは相変わらずだな……」


そんな2人のやり取りを見ていたジェニファーは遠慮がちに声をかけた。


「あ、あの……シドさん。助けてくれてありがとうございます」


「いえ、別に」


シドはそっけなく返事をする。そこへニコラスが説明した。


「ごめんジェニー、シドが無愛想で。彼は僕の故郷で騎士見習いをしているんだけど、昨日突然城に訪ねてきたんだよ。それで今日から僕の護衛につくようになっちゃって……」


「この町に着いたとき、最近流れ者が居着いて治安が悪くなったという話を聞いたから、ニコラス様の護衛についてきたんじゃないですか」


「そ、そうなのね?」


ジェニファーは改めてシドを見つめた。


(専属護衛なんて……。やっぱり、ニコラスはとても身分が高い人なのだわ)


「何です? ジロジロ人のことを見て」


「あ! ご、ごめんなさい! ジロジロ見てしまって」


「ジェニー。シドのことは気にしなくていいよ。もともと、ああいう人間だから。それより、今日は何しようか?」


笑顔で尋ねるニコラス。


「そのことだけど……ニコラス、今日は写真を取りに行かない?」


「写真か……いいね。撮りに行こう! 2人で一緒に記念写真を撮ろうよ」


「それじゃ、行きましょう」


こうして、3人は町の写真屋へ向かうことにした――

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