3−21 ジェニーの体調不良

 その日から、ジェニファーがニコラスと会うのは1日置きとなった。


毎回屋敷の近くまでシドがジェニファーの送り迎えをし、2人が会っている間は邪魔にならないように少し離れたところからシドが見守る。

その様な状況が少しの間続いていた。


そして、ついに写真が出来上がる日がやってきた――



****



「ゴホッ! ゴホッ!」


その日は朝からジェニーの体調がすぐれなかった。


「ジェニー、大丈夫?」


ベッドで咳をしているジェニーにジェニファーは心配そうに声をかけた。


「え、ええ……大丈夫よ……ゴホッ!ゴホッ!」


大丈夫と言いながら、ジェニーの顔色は青い。

今日は写真が出来上がる日で、当然ニコラスとも会う約束をしていた。もうそろそろ約束の時間になろうとしている。


しかし……。


「私、ジェニーが心配だから今日はニコラスと会わないわ」


ジェニファーは咳をしているジェニーの背中をさすりながら自分の考えを口にした。


(シドが近くまで迎えに来てくれているから、伝えてもらえばいいわね。こんなに具合が悪いジェニーを置いてなんか行けないもの)


ジェニファーはそう考えていたのだが、ジェニーが首を振る。


「駄目よ……ゴホッゴホッ! 私のことはいいから……今日はゴホッ! ニコラスと会ってきてちょうだい」


「だけど、こんな具合が悪い状態のジェニーを1人にさせられないわ」


ジェニファーの役目はジェニーの話し相手だけではない。体調が悪くなったときには使用人たちや、伯爵に知らせる役目も担っていた。

けれど、ジェニファーが外出中はジェニーは使用人を誰も部屋に入れないようにしていた。

何故なら、ジェニファーが不在なのを屋敷の人々に知られるわけにはいかないからだ。


「だ、大丈夫よ……それよりも……ゴホッ! 今日は写真が出来上がる日でしょう?    私、どうしてもニコラスの写真が……見たいのゴホッゴホッ!」


「ジェニー……」


本当はジェニーを置いては行きたくなかった。だけど、ニコラスの写真を強く望んでいる。ジェニファーはその望みを叶えたかった。


「分かったわ、ジェニー。ニコラスに会って、写真を取りに行ってくるわね。そしたらすぐに帰って来るから」


ジェニファーは帽子を被った。


「え、ええ……よろしくね……」


ジェニーは弱々しく笑いながら、ベッドの上で手を振った――




****



「お待たせ、シドッ!」


いつもの約束時間より10分遅れでジェニファーは待ち合わせ場所である大木の下に駆け寄ってきた。


「いつも時間通りに来るのに珍しいですね」


木の下で座っていたシドが気だるげに立ち上がった。


「ご、ごめんなさい……」


ここまで駆けてきたので、ジェニファーは肩で息をしながら謝った。


「大丈夫ですか? 少し休んで行かれますか?」


「ううん、いいわ。ニコラスを待たせてしまうから」


「……分かりました。では行きましょう」


「ええ」


シドの言葉に頷くと、2人は町へ向った――




****



 待ち合わせ場所の公園にやってくると、既にニコラスがベンチに座って待っていた。


「あ! ジェニー! 待ってたよ!」


ニコラスがジェニファーを見つけて、笑顔で立ち上がった。


「ニコラス、遅れてごめんなさい」


「別に大丈夫だよ。……あれ? 何かあったの?」


「え? 何もないけど?」


「そうかなぁ……いつもと何だか様子が違うみたいだけど?」


「それは、待ち合わせ場所に遅れて焦ってしまったからよ」


「そんなこと、気にしなくていいよ。それじゃ、写真屋さんに行こうか?」


ニコラスがジェニファーに手を差し出してきた。


「ええ。行きましょう」


ジェニファーは差し出されたニコラスの手をつなぐと笑顔を向けた――

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