3−14 手渡したプレゼント

 ジェニーの部屋に辿り着いたのは16時丁度だった。


「キャアッ! どうしたの、ジェニファー!」


ジェニファーの姿を見た途端、ジェニーは悲鳴をあげた。それもそのはず、今のジェニーは酷い有り様をしていたからだ。

綺麗な服にはあちこちが汚があり、髪の毛にはところどころに草がついている。手は擦り切れ、血が滲んでいた。


ジェニファーは実際ここにたどり着くまでに、多くの使用人たちに出会って驚かれてしまった。

中には怪我の治療を申し出てくるメイドもいた。けれどジェニファーは申し出を断って真っ直ぐにジェニーの元へ戻ってきたのだ。


「ここへ戻る時に途中で転んでしまったの。私ってドジよね、でも時間までには間に合ったでしょう?」


肩で息をしながら笑うジェニファーをじっとジェニーは見つめている。


「そんなことより、怪我をしているじゃない! すぐに手当をしてもらわないと!」


ジェニーはポケットから小さな呼び鈴を取り出しチリンチリンと鳴らした。

するとすぐにメイドが現れた。


「お呼びですか? ジェニー様」


「ジェニファーが怪我をして帰ってきたの。すぐに手当をしてあげてくれる?」


「はい! 今、救急箱を取ってまいります!」


メイドが一度部屋を出ると、ジェニーは早速質問した。


「ジェニファー、どうしてこんな事になってしまったの? まさか時間に間に合わせるために走ってきたのじゃないかしら?」


「え、ええ。そうなの……あ、その前に」


ジェニファーは被っていた帽子を取ると、ブローチを外した。


「はい、ジェニファー。お土産のブローチよ」


「まぁ……可愛い。ありがとう、ジェニファー」


「あのね、このブローチ……実はニコラスが買ってくれたの。ジェニーのためにって」


ブローチはニコラスがジェニファーの為に買ってくれたものだった。だから本当は欲しかったのだが、ジェニーの為に我慢することにしたのだ。


(そうよ。ニコラスは私がジェニーだと思っているのだから……これでいいのよ)


無理に自分に言い聞かせ、諦めるジェニファー。


「え? ニコラスが……私に買ってくれたの?」


ジェニーの顔は嬉しそうだった。


「そうよ、だから私からは本をプレゼントさせて」


ジェニファーは小脇に抱えていた本をさしだした。


「ありがとう、見せてもらうわね……まぁ素敵! まるで写真のようだわ」


「風景画の画集なの。ジェニーは、外へ出ることが出来ないでしょう? だから気に入ってくれるかと思って」


「ええ、もちろん! とても気に入ったわ。ブローチと同じくらい大切にするわね」


そこへ救急箱を持ったメイドが戻ってきて、ジェニファーは手と膝の擦り傷を手当してもらった。


手当を受けながらジェニーの様子をうかがうと、服にブローチをつけて鏡の前でポーズを取っている。

その姿はとても幸せそうだった。


(良かった……あのブローチ、気に入ってもらえたのね)


ジェニファーは寂しい気持ちでジェニーを見つめるのだった――

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