3−15 ジェニーへの頼み
メイドから手当を受けたジェニファーは、早速明日も外出して良いか尋ねることにした。
「あのね、ジェニー。実は明日もニコラスと会う約束をしてしまったのだけど……出掛けて良いかしら?」
「え!? 明日も出掛けるつもりなの? それは駄目よ!」
予想外の反対にあい、ジェニファーは焦った。
「え? ど、どうして駄目なの?」
「だってジェニファーは怪我をしているじゃない。最初は手だけかと思ったけど、足も怪我しているわ。それなのに出掛けては駄目よ。明日は家で私と一緒に過ごしましょう?」
ジェニーはジェニファーの手を握りしめてきた。
「だけど、ニコラスと約束してしまったのよ。明日も会いに行くって」
するとジェニーが悲しそうな目で見つめてきた。
「ジェニファーは……私と一緒に過ごすよりも、ニコラスと一緒に遊びたいの?」
「そういうわけじゃないわ。ただ約束してしまったからなの。勝手に約束を破るわけにはいかないでしょう?」
「待ち合わせ時間にジェニファーが来なければニコラスだって諦めて帰るはずよ」
友達が1人もいたことのないジェニーは人付き合いとはどういうものなのか、良く理解していなかった。
ジェニファーはすっかり困り果ててしまった。
(どうしよう……約束を勝手に破ればニコラスは怒るに違いないわ)
ニコラスに嫌われたくは無かったジェニファーに良い考えが浮かんだ。
「ねぇ、聞いて。ジェニー。ニコラスは私のことをジェニーだと思っているの?」
「そうだったわね。確か彼の前では私の名前を名乗っているのでしょう?」
「そうよ。もし明日私が待ち合わせ場所に行かなければ、きっとニコラスは怒ると思うの。ジェニー、あなたのことを」
「え……? 私のことを……?」
「そうよ。だってニコラスは私がジェニファーだとは知らないのだもの。ひょっとするとジェニーが嫌われてしまうかもしれない」
「私が嫌われる? それはいやよ!」
激しく首を振るジェニー。
「だったら、明日もニコラスに会いに行っていいでしょう? その代わりに2人で会ってどんなことをして過ごしたか全部報告するから」
その言葉に少しの間、ジェニーは口を閉ざしていたが……。
「……分かったわ、明日も出掛けてきていいわ。その代わり、条件があるの」
「条件? 何かしら?」
「あのね、私……ニコラスがどんな顔をしているか知りたいの。明日、町の写真屋さんで写真を撮ってきてもらえないかしら?」
少しだけ頬を染めるジェニー。
「写真ね? 分かったわ。明日、ニコラスにお願いして写真を撮ってもらうわね」
「撮影するには少し時間がかかると思うから、明日は3時間までの外出ならしてきていいわよ」
「本当? ありがとう。ジェニー」
笑顔でお礼を言うものの、ジェニファーは2つの罪悪感を抱いていた。
一つは、ニコラスに自分の正体を偽って会っていること。
もう一つは、身体が弱くて外出することも出来ないジェニーを置いて、町に出掛けることだった。
(私はジェニーの話し相手としてフォルクマン伯爵家に招かれているのに、町に出掛けてニコラスと会おうとしている。きっと伯爵様がこのことを知ったら、嫌な気持ちになるはず。……絶対にニコラスと会うことは知られないようしなくちゃ)
ジェニファーは心にそう、決めた――
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