3−12 次の約束

 アクセサリー屋さんを出ると、ニコラスはじっとジェニファーを見つめた。


「な、何?」


あまり同世代の男の子と接したことがないジェニファーは気後れしながら首を傾げる。


「そのウサギのブローチを見ていたんだ。うん、やっぱりジェニーに良く似合ってる。可愛いよ」


「あ、ありがとう」


(きっとブローチが可愛いという意味で言ったのよね)


分かってはいたものの、ドキドキしながらお礼を述べた。


「ジェニー、これからどうする? 何処か行きたい場所はある?」


「そうねぇ……」


こんなときでも、ジェニファーの頭の中にはジェニーのことが消えなかった。

1人寂しく部屋で過ごしているジェニーを思うと、罪悪感がこみ上げてくる。


「どうかしたの? ジェニー」


「う、ううん。なんでもないわ。そうね……本屋さんにいってみたいわ」


本をお土産に買っていけば、自分が留守の間もジェニーは寂しい思いをしなくても済むかもしれない。

心優しいジェニファーは、そう考えたのだ。


「本屋さんか……うん、いいね。僕も本を読むのが好きだし……それじゃ、一緒に行こう!」


ニコラスは笑顔でジェニーの右手を繋いできた。


「う、うん。そうね、行きましょう」


ジェニファーは返事をすると、二人は仲良く手を繋いで本屋さんを目指した。



「ジェニー、あのお店はキャンディー屋さんだよ。それで、あの店は手芸店」


歩きながら、ニコラスは様々な店を教えてくれる。


「ニコラスは、この町のことが詳しいのね」


最初は手を繋いで歩くことに緊張していたジェニファーだったが、今は自然に

歩くことが出来ていた。


「うん、まぁね。……今住んでいる城には僕の居場所は無いから。だからなるべく町に出ているようにしているんだ。一人ではあまり楽しくも無いけどね」


「あ……」


その言葉にジェニファーは思い出した。


(確かニコラスも私と一緒で、他所の家にお世話になっているのだったわ)


けれど、ジェニファーはフォルクマン伯爵家の暮らしにとても満足していた。伯爵もジェニーも、それに使用人たちも皆とても親切だ。美味しい料理に綺麗なドレスを与えられ、ずっと希望していた勉強もさせてもらっている。

何不自由無い暮らしをさせてもらっているのだ。

けれど、きっとニコラスは違うのだろう。


そんなニコラスを見ていると、気の毒に思えた。


「大丈夫よ、ニコラス。私がいるもの。だって、私達は友達でしょう?」


「ジェニー……ありがとう。それじゃ明日も会える?」


「ええ、会えるわ」


ジェニファーは大きく頷いた。


(大丈夫、ジェニーならきっと分かってくれるはずだわ)


「本当? 嬉しいな〜。あ、本屋さんに着いたよ」


ニコラスが足を止めたのは、白い壁にオレンジ色の屋根の建物の前だった。


「ここが本屋さんなの?」


「そうだよ」


ニコラスが木製の扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴り響く。


「さ、中に入ろう、ジェニファー」


「う、うん」


ジェニファーは生まれて初めて本屋さんに入った。


「わぁ……すごい」


店内は通路を挟んで左右の棚に本がぎっしり並べられている。

一番奥にはカウンターがあり、初老の男性が声をかけてきた。


「おや、可愛らしいお客様たちだ。いらっしゃい。ゆっくり見ていってくださいな」


「「はい」」


二人は返事をすると、早速本棚に目を向けた――


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