3−6 約束
「お姉ちゃ〜ん。抱っこして」
メリーという名前の2歳の少女は、ジェニファーをすっかり気に入ってしまった。小さな両手を伸ばして、おねだりしてくる姿はとても可愛らしかった。
「まぁ! メリー。抱っこなら私がしてあげるわよ」
ジェニファーたちを案内してきたシスターは慌てた。高貴な令嬢に貧しい孤児の少女を抱かせるわけにはいかないと思ったからだ。
けれど、ジェニファーは気にもとめない。
「フフ、いいわよ」
子守が慣れているジェニファーはメリーを抱き上げて膝の上に乗せると、嬉しそうに笑った。
「お姉ちゃん、クッキー美味しいね〜」
「ええ。とっても美味しいわね」
ジェニファーはメリーを膝上に抱き上げながら、クッキーを口に入れた。
さすがジェニーがお土産にと持たせだけあり、絶品の味だった。
「お兄ちゃん、後でボール投げして遊ぼうよ」
5歳の少年、 ビルがニコラスに話しかける。
「ごめん……僕、今手を怪我しているから駄目なんだ」
申し訳無さそうにニコラスが自分の怪我した左手を見せた。
「大丈夫? お兄ちゃん、痛くない?」
「大丈夫だよ、ジェニーが治療してくれたから。でも怪我が治ったら一緒にボールで遊ぼう?」
「うん!」
ニコラスとビルが楽しげな様子にジェニファーは安堵していた。
(無理に教会へ連れてきてしまったみたいで、気になっていたけど大丈夫そうで良かったわ)
それから少しの間、お茶会は続き……午後3時にお開きになったのだった――
****
――午後3時半
ジェニファーとニコラスが帰る時間が訪れていた。
「ジェニーさん、ニコラスさん。本日は教会に足を運んで頂き、ありがとうございました。子どもたち、とても喜んでいました」
教会の外でシスターが丁寧に頭を下げた。子どもたちはお昼寝に入ってしまったので、シスター1人だけの見送りだった。
「私もとても楽しかったです」
「僕も楽しかったです」
「もし、よろしければ……また、遊びに来てもらえますか?」
「えっと……あの……」
(困ったわ。私はジェニーにお願いされたから教会に来たのに……自分からここへ遊びに来るなんてこと、していいのかしら?)
ジェニファーは、あくまでジェニーの話し相手としてフォルクマン伯爵に住まわせてもらっている。
ジェニーの考えが全てであって、そこにジェニファーの意思は無いのだ。
「どうしたの? ジェニー」
ニコラスが尋ねてきた。
「あ! す、すみません! こんな身勝手なことお願い出来る立場ではないのに。申し訳ございません!」
慌てて謝罪するシスター。
「謝らないで下さい。また、遊びに来ますね。皆に会いたいので」
ジェニファーは笑顔で返事をした。
(そうよ、またジェニーにお願いすれば良いのよ。教会に遊びに行きたいって。きっとジェニーは許してくれるはずだわ)
「本当ですか? ありがとうございます! 子どもたちも喜びます」
「それじゃ、帰りますね。行きましょう、ニコラス」
「うん、そうだね」
そして2人は笑顔のシスターに見送られながら、教会を後にした――
****
2人で町を歩きながら、ジェニファーは尋ねた。
「そう言えば、ニコラスは何処に住んでいるの?」
「僕は……今、あの城に住んでるんだ」
ニコラスの指さした先は高台にそびえ立つ、美しい城が建っていた。
「え! あの城に住んでいるの!?」
ジェニファーは遠くに見える城に驚いた。
(まさか……ニコラスはとても身分の高い貴族だったのかしら!?)
「ち、違うよ! あの城に今住まわせてもらっているだけなんだ! 本当だよ?」
ニコラスは慌てたように首を振る。
「そうだったの……だったら私と……」
同じだと言いそうになり、慌ててジェニファーは口を閉ざす。
「あのさ、ジェニー。もしよければ……怪我の手当のお礼をしたいんだ。明日、会えないかな……?」
ニコラスは足を止めると、真剣な目で見つめてきた――
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