3−7 また明日

「え? 明日?」


突然の誘いにジェニファーは戸惑った。


「うん……駄目、かな?」


「駄目って言うわけじゃないけど……」


ジェニファーの行動は全て、ジェニーによって決められている。元々、ジェニーの話し相手としてフォルクマン伯爵家に招かれているのだ。自分の都合で出かけることなど、出来るはずもなかった。


「だったらいいよね?」


真剣な目で訴えてくるニコラス。


(困ったわ……だけど、ジェニーに本当のことを告げれば外出を許してくれるかもしれないし……)


それにジェニファーもまた、ニコラスともっと仲良くなりたいと思ったのも事実だ。


「ええ、いいわ。それじゃ、今日と同じ時間に会いましょう」


「本当!? だったら、明日ジェニーの家に迎えに行くよ。場所を教えてくれる?」


その言葉に焦るジェニファー。

ニコラスがフォルクマン伯爵邸を訪ねてくれば、自分がジェニーでは無いということがバレてしまう。


「あ、あの! それよりも、何処か他の場所で待ち合わせしましょう」


「うん。ジェニーがそう言うなら僕は構わないよ。それじゃ、何処で待ち合わせをしようか」


「そうね、何処がいいかしら……」


その時、2人の眼の前に開けた広場が見えてきた。

中央には円形の噴水があり、水を拭き上げている。


「ねぇ、それならあの噴水の前で待ち合わせしない?」


ニコラスが噴水を指さした。


「いいわね。あそこなら分かりやすいもの」


「待ち合わせ時間は何時にする?」


「そうねぇ……午後2時はどう?」


「いいよ、午後2時だね? 約束したよ?」


「ええ。それじゃ、そろそろ私帰るわ。1人で来たから家の人が心配していると思うの」


ジェニーが心配しているのではないだろうかと、ジェニーは気が気でなかった。


「あ、ごめんね。引き止めたりして……家まで送ろうか?」


「いいのよ、1人で帰れるから大丈夫。それより、ニコラスこそ家の人が心配しているのではないの?」


慌てて首を振るジェニファー。屋敷まで着いてこられれば、自分が本当はジェニーではないことがバレてしまう。どうしてもそれだけは嫌だった。


「……僕のことを心配するような人は誰もいないよ」


何故かニコラスの顔が曇る。


「どうかしたの?」


「ううん、何でもない。それじゃ、また明日会おうね」


「ええ、また明日ね」


2人は手を振ると、ニコラスは背を向けて走り去っていった。


「私も急いで帰らなくちゃ」


ニコラスの姿が見えなくなると、ジェニファーも急ぎ足でフォルクマン伯爵邸へと帰っていった――



****



――午後4時半


「ジェニファー! 遅かったじゃない! すごく心配したのよ!?」


部屋に戻るやいなやジェニファーの元へジェニーが駆け寄り、抱きついてきた。


「遅くなってごめんなさい、ジェニー」


ジェニーの頭を撫でながらジェニファーは謝った。


「あまりにも帰ってくるのが遅いから、何かあったのではないかと凄く心配したのよ? 教会には行けたの?」


顔を上げたジェニーが尋ねてくる。


「ええ、もちろん教会に行ってきたわ。お土産のクッキーを喜んで食べてくれたし、誰も私のことをジェニーだと思ってくれていたわ」


「本当? それなら良かったわ。でも、随分長い時間教会に行っていたのね?」


「ええ。そのことだけど、実は……」


ジェニファーはニコラスのことを正直に伝えることにした――

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