2−8 少女たちの約束
ジェニファーはその日、夕食をジェニーの部屋で一緒にとることになった。
「さぁ、ジェニファー。好きなだけ沢山食べてね」
テーブルの上にはジェニファーが経験したことがないような豪華な食事が並んでいた。肉料理に魚料理、フワフワのパン。他には見たことがない料理まである。
「……」
テーブルマナーを全く知らないジェニファーはどうやって食べたら良いか分からず、戸惑っているとジェニーが声をかけてきた。
「どうしたの? ジェニファー。食べないの?」
「あ、あのね。私……こんなに豪華な料理、見るのも始めてだからどうやって食べたら良いか分からないの……」
ジェニファーは恥ずかしくて俯いた。
「そんなことだったの? だったら私の真似をして食べればいいわ。良く見ててね」
ジェニーは見事な手つきで料理を口にしていく。その様子をジェニファーはじっと見つめる。
「……どう? こうやって食べればいいのよ。やってみて」
「分かったわ、やってみるわ」
ジェニファーは見様見真似で、フォークとナイフを手に取り、料理を口に運んだ。
「すごい! 上手よ、ジェニファー。たった1度見ただけで出来るなんて、天才かしら!」
ジェニーは感動したかのように目を見開いた。もともと、利発なジェニファーは何でもすぐに出来る少女だったのだ。
「本当? ありがとう。でも、ジェニーが上手に食べ方を教えてくれたからよ。さすがは、お姫様だわ」
ジェニファーにとってはジェニーは、まさに姫だった。
「フフフ、お姫様なんて大げさね。私はそこまで身分が高くないわ。でも、いつか素敵な王子様と結婚するのが夢なの。可愛い赤ちゃんも沢山欲しいわ」
夢見がちなジェニーは、いつか素敵な王子様が自分の前に現れることを信じている。
「ジェニファーならきっと夢が叶うわ。でも、具合が良くなって本当に良かった」
「心配してくれてありがとう。それに、一緒に食事してくれることも嬉しいわ。お父様は仕事が忙しいし、私は身体が弱いから外に出ることも殆無くて、友達もいなかったから……」
ジェニーの母親も身体が弱い人だった。彼女を産んですぐに亡くなっている。
「ジェニー……」
学校へ行かせて貰っていないジェニファーも友人はいなかった。そもそも家事で、こき使われている少女には遊ぶ時間など許されなかったのだ。
けれども年の近いダンとサーシャがいてくれたので、辛い生活も我慢が出来た。
「ジェニファー、お願い。ずっと、ここにいてくれる?」
「ええ、もちろん」
けれど、ジェニファーには分かっていた。ジェニーが健康になれば、自分は用済みになってブルック家に戻されるだろうと。
元々ジェニーとは住む世界が違うのだということを、伯爵と出会ったときから感じていた。
自分のような貧しい身分が、ジェニーのようなお姫様とは釣り合いは取れない。
かえって、そばにいればジェニーの評判を落としてしまうだろうと考えていたのだ。
「ずっと、ジェニーのそばにいるわ」
そんな気持ちを押し殺して、ジェニファーは再度返事をした――
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