2−7 伯爵からの提案
1人になると、早速ジェニファーは片付けを始めた。
何もかも家事を1人でやらされていたジェニファーにとって、衣類整理など容易いことだった。
「本当に素敵なドレスばかり……私なんかが貰っていいのかしら? 家事もしないで、ただジェニーの話し相手になるだけなのに」
プレゼントされたドレスをハンガーに吊るしながら、ジェニファーが呟いた時。
「ジェニファー。ちょっといいかい?」
開いていた扉から伯爵が顔をのぞかせた。
「はい。大丈夫です、どうぞ」
「それじゃ、失礼するよ」
伯爵は部屋の中に入ると、辺りを見渡した。
「ジェニファー1人かい? 専属メイドはどうした?」
「はい。私一人で何でも出来るので、お手伝いは大丈夫ですと断りました。きっとお姉さんには沢山、お仕事があるでしょうから」
「ジェニファー……」
その言葉に伯爵は胸が締め付けられた。
(何てことだ……弟夫婦が亡くなって心配はしていたが、叔母夫婦が後見人に名乗りを上げたから安心していたのに。学校にも行かせてもらえずに働かされていたなんて……そうだ。どうせ暫くはここに滞在するのなら……)
「ジェニファー、勉強をしてみたいとは思わないか?」
「え? 勉強ですか?」
「そう、勉強だよ。ジェニファーは読み書きは出来るみたいだけど、計算は出来るかな?」
「あ、あの……出来ません」
ジェニファーは利発な少女だった。まだ両親が存命だった頃、母親に絵本を読んでもらっていた。そこで文字を覚えて読み書きは出来るようになったけれども、全く教育というものを受けていない。当然計算など出来るはずもなかった。
「そうか。実はジェニーも学校には行ったことがないんだよ。あの娘は産まれたときからとても身体が弱くてね。その代わり、体調が良いときは家庭教師を招いて勉強させている。その時、ジェニファーも一緒に授業を受けてみないか?」
それは夢のような申し出だった。
「本当ですか……? 私も勉強させてもらえるのですか? ジェニーの話し相手に呼ばれただけなのに?」
「もちろんだよ、勉強は子どもの権利だからね」
「権利……」
ジェニファーには「権利」ということばがどういう意味か分からなかった。けれど、とても素敵な響きに聞こえた。
「ありがとうございます、伯爵様!」
「お礼なんかいいよ」
笑顔で答える伯爵。そのとき、ジェニファーは大事なことを聞くのを忘れていた。
「そういえば、ジェニーの具合はどうですか? 良くなったのですか?」
「心配してくれてるんだね? ジェニファーは優しくて良い子だね。吸入と薬のおかげで、すっかり良くなったよ。今さっき、眠ったところだ」
「そうですか……良かった」
胸をなでおろすジェニファー。
「ジェニファー、もう一つ頼みたい事があるんだ。いいかな?」
「はい、何でも言って下さい」
ジェニファーにとって、伯爵は大切な恩人だった。恩人の言うことは何でも叶えてあげたいと考えていた。
「これからはジェニーと一緒に部屋で食事をとってもらいたいんだ。ジェニーはダイニングルームで食事をするだけの体力が無くてね」
「私もジェニーと一緒に食事をしたいと思っていました」
「そうか、それは良かった。ジェニーにも伝えておくよ。夕食は18時だから、その頃にまた迎えに来るからね」
「はい!」
元気よく返事をするジェニファーに笑顔を向けると、伯爵は「またね」 と言って、部屋を出て行った――
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