2−4 2人の少女

 ジェニーの部屋はジェニファーの部屋からは離れていた。


階段を上り、長い廊下を歩くと真っ白な扉の前に辿り着いた。扉にはジェニーと書かれて札が取り付けてある。


「こちらがジェニー様のお部屋になります」


エバンズがノックすると、直ぐに扉が開かれてメイドが姿を現した。


「エバンズ様、お待ちしておりました」


「旦那さまは?」


「はい、ジェニー様のおそばにいらっしゃいます。……あら?」


メイドがジェニーの姿に気付いた。


「こちらの方がジェニファー様だ。今日からこの屋敷で住むことになる」


「まあ、この方がジェニファー様ですか。……本当に良く似ていらっしゃいますね。初めまして、私はジェニー様の専属メイドのルネと申します」


メイドが笑顔でジェニファーに挨拶してきた。


「は、はじめまして。ジェニファーです」


慌ててジェニファーも挨拶し、チラリとルネを見た。


(ここのメイドのお姉さんは、とても優しそうだわ……)


先程のジェニファーの専属メイドになったアンとは雲泥の差だった。


「ジェニファー様。中へ入りましょう、旦那さまとジェニー様がお待ちです」


エバンズが促してきた。


「は、はい」


気後れしそうになりながら返事をすると、ジェニファーは恐る恐る部屋の中へと入った。


「わぁ……」


一歩部屋の中に入り、ジェニファーは目を見開いた。この部屋はとても広くて明るかった。

大きな掃き出し窓からは太陽の明るい日差しが差し込み、バルコニーの先には緑の美しい木々が見える。

部屋全体は薄いピンク色で統一されており、家具は真っ白だった。本棚には本が溢れ、棚には様々なぬいぐるみが並べられている。


(なんて素敵な部屋なの……まるでお姫様の部屋みたい……)


部屋の奥には天蓋付きの大きなベッドが置かれており、伯爵の姿が見えた。どうやらベッドの上を見つめているようだ。


「旦那様、ジェニファー様をお連れしました」


エバンズが声をかけると、伯爵が振り返ると手招きした。


「ジェニファー。来たのだね、こちらへおいで」


「はい、伯爵様」


返事をするとジェニファーはベッドへ近づき、白いネグリジェ姿の少女が身体を起こしている姿が見えた。


その少女は髪の色も、長さもジェニファーに良く似ていたい。ただ一つ違っていたことは瞳の色だった。

ジェニファーの瞳は緑色の宝石のようで、ベッドの上の少女は青い瞳をしている。


2人の少女は対面すると、伯爵がすぐ紹介した。


「ジェニファー。この子が私の一人娘のジェニーだ。年齢も同じ10歳だよ」


するとジェニーが笑顔になる。


「ジェニファーね? あなたのこと覚えているわ。私達ずっと小さな頃、一緒にあそんだわよね?」


「私のこと……覚えていてくれたの?」


ジェニファーが目を見開く。


「それはそうよ。だって私のたった1人の従姉妹だもの」


まるでお姫様のようなジェニーの言葉がジェニファーは嬉しかった。

学校へ行かせて貰うことも出来ず、朝から晩まで意地悪な叔母にこき使われる日々。

遊ぶ時間など無く、当然友達もいなかっただけに尚更だった。


「良かった、すぐに2人は仲良しになれたようだ。ジェニファー、娘はとても身体が弱くて喘息も持っているんだ。そのため、自由に外出することも出来ないし、友達もいない。なので、どうか娘をよろしく頼む」


「はい、伯爵様」


「ジェニファー。これからよろしくね?」


ジェニーが右手を差し出してきた。


「うん、私こそ!」


2人は笑顔で握手を交わした――


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