2−3 ジェニファーの仕事

 アンが出ていくと、ジェニファーはポツリと呟いた。


「あのお姉さん……何だか怒っていたみたい。私、何かしてしまったかしら?」


意地悪な叔母と叔父の顔色を伺いながら、生きてきたジェニファー。彼女はすっかり周りを気にする子供になっていたのだ。


――コンコン


その時、扉をノックする音が聞こえた。ジェニファーは慌てて駆け寄ると扉を開けると、先ほどで迎えたエバンズが現れた。


「えっと……エバンズ様ですよね? 何か御用でしょうか?」


するとエバンズは目を見開く。


「もう私の名前を覚えられたのですか? 中々利発なお嬢様ですね。ところで、今は1人なのですか? メイドはどうしました?」


「あの、困ったときは声をかけて下さいと言って出ていきました」


「何ですって? 彼女はジェニファー様の専属メイドになったのに、お世話をせずに出ていってしまわれたのですか?」


エバンズが眉をひそめる。

その姿を見て、ジェニファーは自分がまずいことを言ってしまったことを悟った。


(どうしよう! 私のせいでお姉さんが叱られてしまうわ……何とかしなきゃ!)


「あの、お姉さんを叱らないで下さい! 私がいけないんです。何でも自分で出来るから大丈夫って言ったから。悪いのは私です!」


ジェニファーは必死に頭を下げた。


「ジェニファー様……」


まだ、10歳なのに相手を気遣うジェニファーにエバンズは心を打たれた。


「どうぞ、お顔を上げてください。ジェニファー様」


優しい声に顔を上げると、エバンズは笑みを浮かべてジェニファーを見つめている。


「ご安心下さい、彼女のことは咎めません。ですが、ジェニファー様は大切な客人です。なので、我々に敬語を使う必要は一切ありませんよ? 勿論、さっきのメイドに関してもです。ましてや、ジェニファー様は旦那様の姪っ子なのですから」


「はい。分かりました」


「それではジェニファー様。旦那様は今、ジェニー様のお部屋にいらっしゃいます。今からご案内致しますので、どうぞ私についてきて下さい。お荷物は全てこちらのお部屋に運んでおきます。我々で片付けを行っても構いませんか?」


その言葉にジェニファーは驚いた。


「え? で、でも私の荷物ですよ? それなのに片付けてもらうなんて」


「いえ、これが私達の仕事です。そしてジェニファー様にも大切なお仕事があります」


「私の大切な仕事?」


「はい、そうです。それはジェニー様のお話相手になっていただくことです」


「ジェニーの話し相手に……」


(そうだったわ。私は病気で外にも出られないジェニーの話し相手になるために、ここへ来たのだっけ)


「では、旦那さまとジェニー様がお待ちです。参りましょう」


「はい!」


ジェニファーは笑顔で返事をすると、エバンズに案内されてジェニーの部屋に向かった。


(ジェニー、会うのは5年ぶりだわ……私のこと、覚えているかしら?)


ジェニファーの胸の内は期待と不安が入り混じっていた――

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