2−5 病弱なジェニー

 ジェニファーとジェニーは久々の再会にも関わらず、とても気があった。


2人が仲良く話をする姿を伯爵は満足気に眺めていた。


(やはり、ジェニファーをここに連れてきて良かった。ジェニーはあんなに楽しそうに笑っているし、あの酷い環境から連れ出すことが出来たのだから)


その時――


「ゴホッゴホッ!」


ジェニーが苦しそうに咳を始めた。


「だ、大丈夫!? ジェニー!」


激しい咳に驚くジェニファー。


「喘息の発作だ!」


伯爵は部屋に取り付けてあった呼鈴の紐を引くと、すぐにメイドが駆けつけてきた。


「旦那様! どうなされたのですか!?」


「ジェニーの喘息の発作が始まった! すぐに主治医を呼んできてきくれ!」


咳き込むジェニーの背中をさすりながら伯爵はメイドに命じた。


「はい!」


再び部屋を出ていくメイド。

ジェニファーは激しい咳を続けるジェニーを心配そうに見つめていると、メイドが白衣を着た男性を連れて戻ってきた。


「ジェニー様! 大丈夫ですか!」


「ドクター! 娘を観てくれ!」


医者はすぐにジェニーの元へ駆け寄った。


「ジェニー様、吸入薬を持ってきたのですぐに準備しますね」


医者がベッドサイドに置かれたブリキの器具に何やら液体を入れている様子をジェニファーが見つめていると、伯爵が声をかけてきた。


「ジェニファー。すまないが、部屋に戻っていてもらえるかい? 場所は……」


「大丈夫です、伯爵様。部屋の場所は覚えていますから1人で戻れます」


「そうか、ジェニファーは本当に賢いね。後でまた部屋を訪ねるよ」


伯爵はジェニファーの頭を撫でた。


「はい、あの……ジェニーにお大事にと伝えておいて下さい」


それだけ告げると、ジェニーの部屋を後にした。



**


「ジェニー……大丈夫かしら。あんなに咳をたくさんして……」


長い廊下を歩きながら、先程の苦しそうな姿を思い返した。

今まで喘息の患者を見たことが無かったジェニファーにとっては、それほど驚きの出来事だったのだ。


「もう、咳が止まっているのいいのだけど……」


そんな事を考えながら歩いていると、前方から複数のメイドがやってきた。そのうちの1人が驚いた様子で声をかけてきた。


「まぁ! ジェニー様ではありませんか。廊下を1人で歩いていらっしゃるなんて、もうお身体は大丈夫になられたのですか?」


「いえ、私はジェニーではありません。今日からこちらでお世話になるジェニファーです」


「え? ジェニファー?」


「そう言えば、今日からいらっしゃるって……」


メイド達は勘違いしていることに気づき、すぐに謝罪してきた。


「申し訳ございません! ジェニファー様!」


「そっくりでしたので、間違えてしまいました!」


「お許し下さい!」


伯爵の姪っ子であることを知っているメイド達は丁寧に謝罪する。


「大丈夫です」


ジェニファーは笑顔で返事をすると、そのまま自分の部屋へ向かった。



その後姿を見守るメイドたち。


「あぁ、驚いた。ジェニー様かと思ったわ」


「私もよ。本当にそっくりよね」


「確か、あの子の専属メイドになったのはアンだったわよね」


「アンに虐められなければいいけど……」


メイドたちは密かにジェニファーを心配するのだった――

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