⑤人間関係
前述の「多様性」にも通じることだが、波風を立てずに他人と関わる「大人の対応」は必要だ。相手に節度を持ったコミュニケーションは、恥ずかしいことに短大生になってからやっと身につけることができた。
長い昔語りになるが、小学校から高校まで全体を通して治安が良いとは言えないのが私のそれまでの学生生活だった。小学生が学級崩壊を起こし、中学は頻繁に窓ガラスが割れるような中で過ごしてからの底辺高入学である。他人目に見れば私も十分やさぐれていたと思う。
特筆した能力を持たない私が自分の身を守る手段が「他人を褒めない」だった。
例えば他人の髪型が変わったら「変な髪型w」とからかう。会話の切り込みはまず悪口。似合っていると思っていてもからかった。
非常に情けないが、心にもないことを吐いて「私はこんな攻撃性があります」と言葉のナイフを振り回さなければ学校は無事に過ごせなかったのだ。仮に褒めてしまったら「良い子ちゃん」のレッテルが貼られて教室という狭いコミュニティで迫害されてしまう。
それが通常のコミュニケーションだと幼い私は信じて疑わずに10年近く過ごしていたのだ。治安の良くない学校生活で自分だけは精一杯平和に過ごすために使う漠然した処世術だった。
短大に入学して間もなく、とある講義に外部の取材が入ることになった。授業風景も撮影するとのことなので清潔感のある身なりをしてくるようにと事前説明があったと思う。
講義当日、いつも登壇するストレートヘアの女性の教授は珍しく髪を巻いていた。服装もフェミニンさが増していたと思う。いつもより可愛らしくなっていた教授に当時の私は「いい年して、かわいこぶりっ子じゃんw」と心にもない嘲笑を込めた言葉が喉まで出かかりそうになる直前、隣の席に座っていた友人は言った。
「とっても可愛くしてるね」と。
友人はお世辞でもなく、冗談でもなく、心の底からそう言っていたように思う。髪を巻いてフェミニンな服を着た女性教授は可愛いと。
その瞬間、私の言動はおかしかったことに気付いた。意味も無く言葉のナイフを振り回すのは幼稚だと。心にもない言葉を吐いて相手を不必要に卑下するのは恥ずかしいことだと、短大生にもなってようやく気付いたのだ。
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