第41話 2か所同時? じゃあ、こっちも危ないだろ?
節分も過ぎ、これから少しずつ春を待つ季節。
横須賀の『にぎた脳神経外科医院』へと向かう十文字と特殊武装の瞳。
「モンジせんぱい。札幌が動きました」
「どっち?」
「どっちもです」
瞳は、札幌の大森の実家と家への帰路にあった大森の車が、ほぼ同時にウェットロイドの襲撃を受けたと言う。
――2か所同時?
じゃあ、こっちも危ないだろ?
* * *
雪まつりが始まったばかりの雪景色の札幌。
大森の実家は、その札幌市の郊外にあった。
好天に恵まれたその日、大森の両親は、買い物日和とばかり、孫のアンジェラの世話をメイドのメイリーに任せ、車でスーパーに出掛けていた。
16時を過ぎ、買い物を終えた大森夫妻が車に乗り込み、エンジンを掛けると、車は勝手に走り出し、広い駐車場の中をどんどん加速していく。
大森の父親は、ブレーキを踏みながらハンドルを握り締める。
駐車場の出口まで15メートルというところで、突然ブレーキが効いた。
車はスリップしながらも、大きく弧を描いて停まった。
幸い、駐車中の車の少なく、他車との追突も無く、駐車場設備を破壊することも無かった。
ハンドルを握ったまま、ぜえぜえ、はあはあと息を荒くする大森の父親のスマホにメイリーから電話が入る。
『お父さん、大丈夫ですか? 車がちょっと異常な動きをしたのでネット接続を切りました。今、とりあえず動かせる状態ですが、念のため、あと30分程、そこでお待ち下さい。アンジェラちゃんには私の方から、少し遅れるって言っておきます』
「あ、ああ、ありがとうメイリー」
この日、駐車場の端で見守っていた香春鉄男(赤鉄)がEV車の異常を察知し、車のネット接続を強制的に遮断したため、急ブレーキとなった。
こんなこともあろうかと、メイリーが大森の父のEV車に細工していたのである。
大森の両親の無事を見届けた赤鉄は、大森の自宅に急いだ。
少し離れたところに車を停めた赤鉄は、テレスコープで実家の様子を伺う。
大森の実家は、平屋の戸建てで、庭が広いため隣近所とはちょっと距離が開いている。
今、その門の前には、1台の車が止まっており、そこには3人の人影。
女が1人、男が2人。いずれも警棒らしき武器とナイフを腰にぶら下げている。
男達の手には電動ドリルと大振りのハンマー。
女が見張りに立ち、男達が襲撃するという段取りのようだ。
赤鉄は、バックパックの小型ドローンを放つ。
上空からレーザー攻撃で見張りの女の注意を逸らしながら車で接近。
車から飛び出した赤鉄は、モジモジグローブの右手からもレーザーを放ちながら接近する。
ドローンのレーザーと右手のレーザーで、見張りの視線を誘導。
女の目がドローンに向いたところへ、死角から滑り込んで後ろに回り込んだ赤鉄は、見張りの背中に左手のスタンガンをぶち込んだ。
赤鉄は、大森家のドアをハンマーで破壊しようとしている男達に背を向けて、女の耳に無効化ギアを差し込んだ。無効化ギアの存在を他のウェットロイドに知られるわけにはいかない。
男達が赤鉄に気付き、ドアの破壊に1人を残して、警棒とナイフを抜き、赤鉄に駆け寄ってくる。
赤鉄はドローンを使って、ドアを破壊している男にレーザーを浴びせるとともに、走り寄ってくる男の首にも背後からレーザーを浴びせる。
何事かと男が後ろを振り返った隙に、滑り込んで足払い。
倒れた胸元に、すかさずスタンガンを打ち込んだ。
その間もドアを破壊いようとする男に、レーザーが休みなく浴びせられている。
赤鉄は、男の左目を右手のレーザーで焼くと、その死角に飛び込み、脇腹にスタンガンを放った。
赤鉄は、男2人を次々に無効化した後、3人をいったん車に乗せ、AIの書き換えを行っていく。
ほどなく書き換えが終わった3人は、車に乗って引き揚げていった。
行先は、『ハニーロイドカフェすすきの店』だ。
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