第42話 なんで、この娘までモジモジ呼びなんだよ?


 ちょうどその頃、自宅に向かう大森の車が、周囲に家々が途切れたところで襲撃を受けた。


 対向車線からはみ出した1台のEV車が大森の車に接触。

 急ブレーキでスリップしながら車道横に積もった雪に引っ掛かって180度反対向きに停まった大森の車。

 ぶつかったEV車は、反動で道路脇に突っ込み、車道を塞ぐように横向きに停まった。

 そのEV車の少し後ろを離れて走っていた白いワゴンが、大森の車の脇に停まる。

 中からは2人の男が出て来た。この2人も、腰に警棒とナイフを下げている。


 2人が助手席側から大森に声を掛けているところに、大森を追走していた香春鉄男(青鉄)が追い付いた。

 青鉄は、バックパックから小型ドローンを放ち、10メートル程上空から、男達の動きを警戒しつつ、声を掛ける。


「その人は、私の知り合いなので、私が病院に連れて行きますよ」

 と、青鉄が近寄ると、男の1人は、いきなり警棒を手にして、殴り掛かってきた。


 青鉄は、警棒を持った男の右手首を右手で掴むと、体を入れて捻りながら、左手を男の右脇腹に押し付けてスタンガンを放つ。


 もう1人の男が、後ろから青鉄の心臓目掛けて左手のナイフを突き刺しに来たところを、身を翻した青鉄の右手が掴む。

 これを内に捻りながら引き寄せ、男の鳩尾に正拳突き。

 ぐっとのめり込んだところで、再びスタンガン。


 青鉄は、装備しているヘッドギアの後方カメラと、上空の小型ドローンで、全体の様子を同時に把握していた。


 青鉄は、おもむろに2人を無効化し、小型ドローンを回収すると周囲を見回した。


 ぶつけてきたEV車の運転手は、まだエアバッグに埋もれているようだ。

 大森は無事らしく、エアバッグから抜け出すと、ドアを開けて出てきた。


「大丈夫ですか? 大森さん」

「ま、まあなんとか。いやあ、半信半疑でしたが、ほんとに襲われましたね……。スピードを抑えていて正解でした。家の方は大丈夫でしょうか?」

「ご自宅の方も、襲われましたが、ご両親も娘さんも無事ですよ。玄関を少し壊されたみたいですが」

「そうですか。でもお蔭で助かりました。ありがとうございます、香春さん」


 青鉄は、男達を1人ずつワゴン車の後部座席に戻すと再び大森を振り返る。


「私も、こいつらも引き揚げますが、もうすぐ、ハニーロイドカフェのスタッフがここに来るので、後はその人の指示に従って下さい。この連中のことと、私がいたことは、ご内密にお願いします」

「わかりました」


 ほどなくして、AIを書き換えられた男達は、ワゴンに乗り込み、市内の方に走り去った。青鉄は大森に手を振って車に乗り込むと、大森の車を追い抜いてしばらく距離を置いて、応援の到着を待つ。


 10分程して、竹之内みどりを乗せたタクシーが到着したところで青鉄もその場を離れて行った。



   *   *   *   



 時刻は18時半を回ったところ、『にぎた脳神経外科医院』で、これから車に乗り込もうとする熱田夫妻に駆け寄る十文字。


熱田にぎたさん、今日もいつも通り、少しゆっくり目でお願いしますね」

「わかりました。なるべく離れないようにします」 「はい。お願いします。何かあれば知佳に話していただければ、こちらにも通じますので」

 ソフトロイドの知佳は、熱田夫妻の車に同乗していた。

「知佳、よろしく頼むな?」

「解りました、モジモジさん」


 ――なんで、この娘までモジモジ呼び

   なんだよ?


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