第35話 おおおぉ! なんか盛り上がってきたんじゃねえのか?
奈美の視線に十文字が咳払いをして答える。
「実は、『アカホヤの灯』はNSAが運営しているチャンネルなんです。ですが、決して、私は、おふたりを騙すつもりは無くて、ですね。言われるがままに、おふたりに取材して、大森さんに取材してたらこんな結果になったということでして……」
話せば話すほど、十文字のモジモジが滲み出る。
苦笑した顔を見合わせる徹と
みのりは、軽くため息を吐くと、奈美に向き直る。
「先輩、私も技術者の端くれなので、一線を超えてしまった自覚はありますよ。この技術を軍事転用したらどうなるかくらい想像が付きます。強化プラスチックを金属にして、モーターの出力を上げれば、あっという間に強力なサイボーグの出来上がりです」
そして、先程よりも長い溜息を吐いた後、それに、とみのりは続ける。
「千里眼のイザナミのことだから、もっと先まで見えているのでしょう? ――ブレインコネクトモジュールが、ほぼ完成していることも」
「確信は無かったけどね……。人体実験なんて、そうそう合法的に出来るわけじゃなし。それでもやろうとするなら自分を実験台にすることもあり得るから……。突然、両足が不自由になった何処かのおバカさんが、世の中に悲観して自分を実験台にしやしないかと、気が気じゃなかったわよ」
「先輩……」
俯いた実の瞳に大粒の涙が溜まるのを目に留めた十文字。
――え、まさか本当に
そのつもりだったの?
実さん?
『ピーンポーン』
「今話題のNSAの方々よ」
さっと涙を拭い、疑問を浮かべた視線を奈美に残しながら、立ち上がる実。
失礼します。と入ってきたのは、橿原、保奈美、そしてワンピース姿のソフトロイド。
橿原が、熱田夫妻に深く頭を下げる。
「NSAの橿原と白石、そしてソフトロイドというアンドロイドです」
「は、はあ」
徹と実も揃って頭を下げる。
「どうぞ、おふたりともお掛け下さい」
橿原はそう言って、自分は立ったまま話を始める。
「NSAでは、おふたりの技術とおふたりの身の安全を全力で保護したいと考えております。ついては、子守役兼連絡役として、このアンドロイドを付けさせて頂きたいと思っています」
橿原の紹介に合わせて、ソフトロイドが頭を下げる。
「メイドとしてお使い頂いても結構ですし、病院の小間使いとしてお使い頂いても構いません。重労働には向きませんが、幅広くご利用頂けると思います。ただ、おふたりの声の届くところに置いてあげてください。旅行に行かれる際や不明なことがあればご相談ください。そのアンドロイドに話し掛けて頂ければ結構です。充電式ですが家庭用の電源で充電出来ます。充電設備は彼女自身が持ち歩いていますので、新たにご用意頂くには及びません。名前はおふたりでご自由に名付けて下さい」
と、ひとしきり流れるように話した橿原は、説明を終える。
「よろしくお願いします」
と、ソフトロイドは頭を下げた。
「は、はあ」
勢いに押された実は、ひと呼吸間を置いて、ようやく返事を返した。
熱田夫妻に注目が集まる中、実が口を開く。
「先輩。NSAの保護下にあるのは臓器培養技術だけではないのではないですか?臓器培養が出来て、あの軟膏のような再生医療技術があるとなれば、臓器どころか、筋肉や皮膚、いいえ、およそ人体のほとんどが再現出来るはず。そして、その子のように自然な振る舞いのできるAIがあるとなれば……」
「実……」
徹も思い当たったらしく、ごくりと唾を飲み込んで、実の次の言葉を待つ。
「例えば、頭脳はAI、ボディが人体そのもののアンドロイド……とか」
「ぷっ、ははははははは」
一瞬の沈黙の後、口を右手で押さえ、左手で腹を抱える奈美。
ひとしきり笑った後、困った子ねという目を実に向ける。
「はぁ……、まったく。ブレインウィッチの洞察力も変わってないわねぇ。――保奈美、瞳」
「はい」
保奈美が1歩前に出ると、瞳も立ち上がって1歩前に出る。
「この2人もNSAの保護対象よ。理由は、ご推察の通り」
驚きを通り越したのか、徹と実は口を開けて呆然としている。
「そこで、今日ここに来た理由の2つ目なんだけど、おふたりにお願いがあるのよ。彼女達のような存在は、ウェットロイドと呼ばれていてね、ご覧の通りの完成度なんだけれど、まだまだ足りない部分があるの。神経細胞の信号を全く使ってないのよ」
奈美は、ふたつ、というところで指を2本立てて、徹と実を見る。
「筋肉を動かす下りの信号と、筋肉からのフィードバック信号は、薄膜信号網という半導体製造技術を応用しているのだけど……あなたの義足にも使っている信号線のことね。味覚、嗅覚、触覚などの上りの信号は拾ってなくて全て電子センサー頼み。そこで、これらの信号を電子接続する研究に協力して欲しいのよ」
どうかな、という目を実に向ける奈美。
ふう、とひと息吐いて、実は答える。
「先輩、今日ここへ来た理由は、本当にそれで全部ですか?」
頷く奈美。
「あなた、いいかな?」
「ああ、少しでも恩返ししとかないと、僕も夢見が悪くなりそうだからね」
うん、と頷いで奈美に向き直る実。
「わかりました、先輩。是非、ご協力させてください」
――おおおぉ!
なんか盛り上がって
きたんじゃねえのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます