第29話 おおぉ? なんか、すっごく心強いんですけど?


 しばらく床を見詰めるように黙り込んでいた十文字。

 モンジ君? そろそろいい?、という奈美の言葉に、はっとして顔を上げる。


「さっき、ウェットロイドの作り方はいろいろって話をしたけど、当面はEXVエグゼブ対応に絞るしかないのも現実よ。だからまずはEXVの動きそうなところをカバーする必要があるわ」


「となると、支社のある横浜と北海道ということですか?」


「そう。エリア的にもそうなんだけど、技術面でもケアしなきゃいけない人物が札幌にいるのよ。ガッシー以外にも神経細胞の電子接続技術を持ってる人がいるの。北海道立医科大学の大森茂雄教授よ。彼は、7年前まで米国テキサス州立大学ドナルド・ハーパー研究室で、神経細胞の電子接続を研究していたんだけど、今はサイボーグにも応用可能な、神経細胞と義手や義足を繋ぐ研究をしているわ」


 ――熱田にぎたさんの時のグッジョブだ。


「それで、取材に行って欲しいのよ。『アカホヤの灯』としてね。去年、私も会ってる人だから、私の紹介でって言えば快く取材に応じてくれると思うわ。――というのは建前で、本音は、彼らを保護する体制を作るのに協力して欲しいの」


「体制? ですか」

 戸惑う十文字。


「そうよ。エリアの警戒も兼ねて活動拠点を作るの」

 姫乃が、意欲に満ちた瞳で、じっと十文字を見詰める。


「実は、うちのハニーロイドは赤外線カメラを装備してて、NSAのネットワークで動いてるの。どういう意味か解る?」


 ――そんなところでも

   ウェットチェック? 

   ウェットロイドってのは、

   そこまでして警戒する存在だ

   ということか。


 十文字の頷きを見て、姫乃が続ける。

「札幌にうちの系列の2号店を出そうと思ってるの。スタッフもモジモジさんがリクルートしてくれたしね」

「リクルート?」

 身に覚えがないという顔で呆ける十文字。


「竹之内みどりとシャーリー・ブロックのことよ」

「なるほど。ハニーロイドカフェで一般人のウェットチェックを行いつつ、竹之内とシャーリーにEXVを監視させるということか」

「そうよ」


「それとね……。モンジ君にもうひとつお願いがあるの」

 奈美が手を上げて十文字の注意を引く。


「ガッシーと大森さんを引き合わせたいの。2人の技術をうまく使えば、ガッシーに義足を付けてあげられると思うの。うちのウェットロイドの技術で生身の体を作ることは出来るけど、神経と神経を正確に繋ぐのはほぼ無理。現状では、大森さんの技術とガッシーの技術を融合するのが最適なのよ……。とても不甲斐ないことだけど」


 奈美は、もどかしさを湛えた苦し気な表情で訴える。

 十文字にも、その切実な思い応えたい気持ちはあるが、その自信の無さが、声にも言葉にも歯切れの悪さを映し出す。


「出来るだけ、やってみたいとは思いますが……、俺はあんまり技術的なところは解らないので……」


「大丈夫ですよ。モンジせんぱい。せんぱいはいつも通り取材していればいいんですよ。後は私達がサポートしますから」

 十文字の肩をポンポン、っと叩きながら、瞳が太鼓判を押してくる。


「私達?」

「はい。私達ウェットロイド全員でサポートしますから」


 保奈美と鈴も頷いた。


 ――おおぉ? なんか、

   すっごく心強いんですけど?



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