第21話 やっぱ、銀座ってそういうもんだよな?
外堀から埋めていこうよ、応援するから、と沙織が鈴木君を焚き付けて、プチ同窓会が開かれることになった。
場所は、銀座の小洒落たカフェ。
沙織に扮した詩織が、同級生の女子2人と鈴木君とシャーリーを待っている。
ちなみに、女子2人は既婚者で、鈴木君のエンジェルになる気満々だ。
少し離れた席から、瞳がこのグループをさり気なく見ていた。詩織が身重のため、いざ荒事となった場合の保険である。
十文字の事務所のディスプレイには、詩織の見た映像と音声が、保奈美を経由して繋げられており、保奈美が見た映像も詩織に繋げられていた。
沙織は、映像を見ながら会話をコントロールしている。
しばらくして、やあ、遅くなりました、と鈴木君とシャーリーが登場。
ひとしきり、ランチを楽しむ面々。
沙織が、映像を見ながら、あれこれ好きに語る思い出話や高校時代のエピソードを聞きながら、詩織は、適度に皆に話を合わせ、鈴木君を盛り上げている。
詩織の目に映るシャーリー・ブロックの赤外線映像は、ウェットロイドのそれであった。
料理の皿が下げられたところで、ちょっとごめんなさい、と言ってシャーリーがトイレに立つ、じゃあ私も、と詩織もバッグを持って立ち上がった。
これを瞳が追う。
「シャーリーさん、ちょっといい?」
「何でしょう?」
「鈴木君の秘密、こっそり教えてあげる」
そう言って、シャーリーの腕をとり、多目的トイレに入る詩織。
トイレ待ちの振りをした瞳が、入り口をガードする。
このカフェが、赤ちゃん連れの女性にも人気があったのは、この多目的トイレの存在が大きい。
数分後、詩織とシャーリーが連れ立って出て来た。
瞳は、何食わぬ顔で席に戻っていく。
「鈴木さん、お話があります」
「はい?」
席に戻ったシャーリーは、居住まいを正して鈴木に向き直る。
「今日は、とても楽しかったです。お誘い頂き本当にありがとうございました。鈴木さんは、私にとってとても親しいお客様ですが、恋人や婚約者のように扱われるのは正直困ります。実は、近々会社を辞めようと思っていたところなので、いつお話しようかと悩んでいたところでした。ですので、あなたとのご縁も今日ここまでとさせて下さい。勘違いさせてしまって本当にごめんなさい」
そう言って、シャーリーは深く頭を下げた。
「そう……、ですか」
詩織を含め、同級生の女子3人が、あらまあと目を丸くする。
「鈴木君、私が変に焚きつけたのが良く無かったわ。わたしからも、ごめんなさい」
そう言って、詩織も深く頭を下げる。
「あたし達も、会社の女の子紹介するから……」
「私もするから」
と、同級生の女子2人も鈴木君をフォローする。
沈んだ空気の中、詩織は、さっと伝票を取り、
「今日は、みんな集まってくれてありがとう。ちょっと空気沈めちゃったけど、私が呼んだんだから、私の責任払いってことで、どうか平にご勘弁願いまするー」
と、少し芝居掛かった調子でテーブルに手を突いて頭を下げる。
「もう、やめてよ。沙織ったら」
と同級生女子2人は苦笑しながら
「あの、高坂さん。今日はご馳走様でした。せっかくのご好意を無駄にするようなことになってしまってごめんなさい」
「そんな、シャーリーさん。頭を上げて」
詩織は、両手を振って恐縮する。
「すみません。そろそろ仕事に戻らないといけないので、私はここで失礼します」
シャーリーはもう一度面々を見回すと、深くお辞儀をして出て行った。
店から出ていくシャーリーを目で追っていた鈴木君。
ひとつため息を吐いて、じゃ俺も、と少し落ち着いた表情で立ち上がる。
「高坂……。今日は、その、ありがとう。こんな事でも無ければ、俺はシャーリーの本当の気持ちを知らないままだったと思うから」
「もう、そういうのいいから。これから頑張ればいいじゃない。またね、鈴木君」
詩織も立ち上がり、ポンポンと鈴木君の背中を叩いて、鈴木君を見送った。
じゃ、後は払っとくから、と残る詩織に、同級生の女子2人も、ご馳走様、沙織、またねー、と手を振って消えて行った。
――意外といいやつなのかもな。
鈴木君。
「ところでさ。さっきのお会計、幾らだったんだ?」
との十文字の発言に応えて詩織がレシートを見る。
ディスプレイに、でかでかと金額が映された。
――やっぱ、
銀座ってそういうもんだよな?
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