第20話 これって、ハニートラップのお手本みたいな話だよな?
「国会の会期中は、議事堂の受付を白石千奈美さんが受け持っていて、出入りする人間のウェットチェックをやっています」
NSAオフィス3階のリビング。
橿原が、十文字、瞳、沙織、詩織、紗理奈を見回しながら本題に入る。
千奈美は保奈美と同様、伊崎奈美をDNAの親に持つウェットロイドだ。
Ver2.0を見分けることが出来る。
「赤外線スキャンも同時に使っているのでまず間違いないです。その時は、榎田喜一議員はシロでした。国会会期中を含めて、過去半年に渡ってヒコボシが洗い直しているところです」
ヒコボシは、NSAのデータベースと国内の全ての認証サービス、およびネットワーク接続された国内のあらゆる監視カメラやセキュリティサービスにアクセス可能なAIである。これに加え、ハニーロイドカフェのソフトロイドが見聞きした情報や、赤外線カメラによるウェットチェックの情報も接続されている。
「国内に入ってくるウェットロイドは全てマークしてるって話だったよな? 漏れがあったんじゃないのか?」
腕組みをした十文字が橿原に厳しい目を向ける。
「完全に漏れが無かったとは断定は出来ませんが、国内で製造されている可能性も否定出来ないことは確かです」
眉を寄せながら、十文字に頷く橿原。
――ヤバくねえか? どうすんのそれ?
「どうやら、調査結果が出るまで待ちってことみたいね……。ねえモジモジ、私達先に戻っていいかな? 色々回りたいところがあるし」
と、もうこれ以上は待てないといった顔の沙織。
しょうがないですね、と肩を
「あまり遅くならないで下さいよ?」
「いや、間違いなくなるでしょ。ねえ?」
沙織は、詩織達を見回す。
うんうんと頷く紗理奈。
「はあ」
と、竦めた肩を落とす十文字。
じゃあねー、と沙織達4人は、リビングを出ていった。
* * *
2時間後、リビングのディスプレイには、ヒコボシが見付けてきた監視カメラの映像が映されていた。
4分割された画面のそれぞれのタイムスタンプは同期が取られている。
8月10日の12時23分。
――音声が無いと、
なんとも寂しい限りだがな。
「ここ何処? 榎田議員が会っているのは誰なんだ?」
左上の映像には、テーブルを囲む3人の男達。
「日比谷公園脇の東都ホテルの小会議室です。先輩、JODOって知ってます? 日本海洋開発機構、そこの顧問の都立工科大藤原正一教授、あとは日本国営放送NKHのプロデューサー、川上秀芳ですね」
「何でそんなメンツで?」
「榎田喜一議員は、自由民政党の海上保安部会の部会長ですから」
「だ……」
「先輩! 動きましたよ」
だからどういう関係? と尋ねようとした十文字の声は、橿原に遮られた。
トイレに立っていた榎田が、トイレから出たところに、女性が声を掛けている。
NSAがマークしていた金髪碧眼の外国人だ。
シャーリー・ブロック。紗理奈同様、4月に入国したウェットロイドである。
シャーリーは榎田をロビーに連れ出していく。
「どういうことだ?」
十文字は、腕を組んで首を捻る。
左上の小会議室の映像には、何食わぬ顔でトイレから戻った榎田が、他の2人に頭を下げている。どうやら閉会を告げた様子。面々が立ち上がり、頭を下げて帰り支度をする様子が映されている。
画面左下は、ホテルの入り口の様子。
シャーリーが、榎田を車寄せに停めてあるハイヤーに誘導している様子が映っていた。
「なるほど。この日にすり替えが行われていたということか!」
「はい。ヒコボシによれば、シャーリー・ブロックは4月に入国してから
「またかよ。それで、2人の行先は?」
「残念ながら、見失いました。シャーリーのAIに聞くしか無さそうです」
画面が変わって虎ノ門の喫茶店内の監視カメラの映像。
タイムスタンプは、4月20日14時39分。
窓際の2人掛けの席には、シャーリーの姿。
榎田の秘書、鈴木君が入ってくると、シャーリーが小さく手を振っている。
シャーリーは、早速本題とばかり、鞄からパンフレットを幾つか取り出しながら笑顔を売り込んでいた。
「ウェットロイドの製造には約1ヵ月必要です。8月10日に現れた榎田もどきは、7月10日以前に作り始める必要があります。4月20日に榎田の秘書、鈴木孝雄に接触したシャーリーは、鈴木を通して指紋情報とDNAを入手したのでしょう」
――これって、ハニートラップの
お手本みたいな話だよな?
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