第15話 え? そっち?


 NSAオフィス3階のリビング。

 日高紗理奈についての対応を確認している橿原、保奈美、十文字、瞳の面々。


 橿原は、十文字に顔を向ける。

「そこで、次の候補として、重松夫妻はどうかと思うのですが、先輩はどう思いますか?」


 ――え? そっち?


義姉ねえさん夫婦は、きっと子供は欲しいと思っていると思うけど、義姉さんもどきの状況にもよると思う。紗理奈ちゃんを養子縁組で娘にしたと思ったら、実は義姉さんもどきも妊娠してたとか、ややこしくなること請け合いだろ? もしそうなったら、紗理奈ちゃんは面倒な家庭環境に育つことになるだろうな」


 橿原は、十文字の顔に指を立てて同意を見せる。

「そうですよね。なので先輩、まずそこを片付けないと日高紗理奈の問題も解決出来ません」


 ――ちょっと待て。

   義姉さん夫婦がダメだったら

   どうすんだよ?


 心の声をいったん押し殺して、十文字は橿原に尋ねる。

「義姉さんに報告するとなると、ウェットロイドの話も避けては通れんだろ? どうすんだ? 国家機密なんだろ?」


 そこなんですよ、と橿原は肩をすくめて見せる。

「重松夫妻は、既に監視対象なのですが、下手に隠し立てするよりも、ちゃんと話して協力を仰ぐ方がいいと思います」

「協力しない場合は、ブタ箱行きか?」


「――まあ、形式はいろいろ考えられると思いますが、大雑把に言うとそうですね」

 少し間を置いた後、橿原は静かに答えた。


 しばらく考え込んだ十文字は、ひとつため息を吐いて口を開く。

義兄にいさんは、ウェットロイドの機密への関与だけでなく技術情報漏洩の疑いも残るんだよな? 罪に問われるのか?」

「重松沙織もどきのAIを回収してみないと被害状況は確認出来ませんが、核心技術が漏洩していればクロ。そうでなければグレー。真っ白にはなりませんが、今後、重松沙織さんがNSAの様々な活動に協力して頂けるのであれば、グレーをシロに近付けることは出来るでしょう」


 十文字は、眉をひそめて腕を組む。

「義姉さんがNSAにどういう協力が出来るって言うんだ?」

「例えば、その先輩の右手のです」

 思わず瞳の方を見るが、?を返される。

「瞳さんじゃありませんよ先輩。駐車場で車相手にぶっ放してたじゃないですか」

「はー、見てたのかよ……」

「あの時は、保奈美さんに崎村知世をフォローしてもらってたんです」


 十文字が保奈美を見ると、

「少し離れていたので、わたくしひとりだと間に合わなかったかもしれません」

 と言って微笑みを返してくる。


 ――そう言いながら、

   余裕だったんだろうな? 

   ま、いいけど。


「他にも、軍事的な意味での国家安全保障に関わるプロジェクトに関わっておられるので、その力も必要になる時が来るかもしれません」

「義姉さんはそんなプロジェクトに関わっているのか?」

「ええ、それも完成したら国家機密なんですけどね」


「つまり、義姉さんに、全部ぶっちゃけるって作戦だな」

「そうですね」


 そうは言ってもな、と十文字は肩を落とす。

「俺さあ、義姉さんに信用されてないことはないと思うんだけどな。さすがにNSAとかウェットロイドの存在を俺の口から言ってもにわかには信用して貰えないかもしれないんだよ。瞳ちゃんを連れてっても心もとない。龍太郎と保奈美さんも一緒に来てくれないかな?」


「そうですね。その方が話が早そうですね」


 ――もし義兄さんがクロだったら、

   紗理奈ちゃんを預けるのは無理

   だよな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る