ゾンビ&エピローグ&プロローグ
世界の終焉が訪れた。
地鳴りのような大轟音がした。
何事かと締め切っていたカーテンを開ける。
燃えていた。
窓から見た景色は真っ赤に染っていた。夕焼け空のように爛々と地平線が……街並みが燃えている。
「星那さんッ!なんかめっちゃくちゃ燃えてるんですけど!?」
「なによ、これ……」
何が起こったのかは分からない。ただ、事態は急を要することだけは分かった。直感的に逃げなければ不味い、そう思った。
再び、爆発音が響いた。それと同時に遠くで火柱が上がるのが見えた。
「うわぁ、キレー……」
「なにバカなこと言ってるの!と、とりあえず、離れるわよ真弘!」
真弘と星那は着のみ着のまま家から飛び出した。
ーーーーー
「星那サァンッ!火の手が近くなってきてマスッ!」
「気が散るッ……話しかけないで……!」
2人はいざと言う時のため移動手段として用意しておいた四輪車に乗り込み荒れ果てた街並みを爆走する。
運転席でハンドルを握っているのは星那。2人とも運転免許証は持っていない。クソの役にも立たない真弘に運転を任せるわけにはいかず、星那がなんとか車を動かす方法を覚えて運転していた。
真弘が悲鳴をあげている通りに火の手は確実に近づいていた。爆発音も断続的に聞こえ回数も増えてきている。それから逃げるように星那は慣れないながらも車を走らせた。
「これどこに向かってるんですか!?」
「知らない……!私に聞かないでッ」
謎の火の手に追われ、さらにそこら中にゾンビが徘徊している。それを避けたり、時には勢いのまま轢き飛ばす。無免許の星那は既にいっぱいいっぱいでまともに真弘の相手をしている余裕などなかった。
そして、それを長く維持できるわけはなかった。
「「あっ……」」
浮遊感。道路に横たわっていたゾンビの死骸を踏切台にして車体が宙を浮いた。思わず漏れた2人の声が重なる。
さらに運悪く。宙で車体が傾き、そのまま大きな音を立てて傾いたまま道路に激突してひっくり返った。
激しい衝撃と痛みが車内に居た2人を襲う。
ーーーーー
「はぁ……はぁ……」
意識を失っている星那を背負って真弘は必死に逃げた。
車からなんとか這い出したが、事故った衝撃で頭をぶつけた星那は意識を失い、頭から血を流している。
置いていけるわけはない。全身が痛みに悲鳴をあげるが、それに鞭打って、逃げた。
迫る火の手、おまけにゾンビにも気が付かれて、追い回される。もうダメかと、諦めそうになる。
それでも、やっぱり死にたくない。そう思って必死に逃げた。
何処に逃げればいいかもよく分からない。
安全な場所があるかも分からない。
それでも逃げた。大丈夫だ。逃げるのは得意だから、と真弘は心の中で自分を叱咤した。
「…………真弘」
「はぁ……はぁ……。星那さん……?目が覚めました?目が覚めたなら重いんで降りて貰っていいですかっ!?」
「あなたね……。まあ、いいわ。降ろして」
どうやら星那が意識を取り戻したらしい。背負っていた星那を降ろすが、頭を抑えてフラフラしてる。
「うっ……」
「逃げるの無理そうですか?それならやっぱり背負って行きますんで乗ってください!」
「どっちよ……。でも、もう背負わなくていい。私を置いてあなただけ先に逃げて」
「無理です!1人で居たらすぐ死にます!星那さんも一緒じゃなきゃ無理!絶対、離れないですからねッ!?」
「ホント……あんたってヤツは……」
「ほらっ!背負われるのアレなら肩貸しますから!」
ーーーーー
心の何処かで、もうダメなんだろうなと思っていた。
「真弘……何処?」
「ここに居ますけど?」
「そっ……。ちょっと手を握って」
限界が来た。
疲労困憊の真弘と、やはり打ちどころが悪かったのか意識が朦朧とする星那。
火の手に煽られ、ゾンビから追いかけ回されて、2人は廃屋の中へと逃げ込んだ。そこで2人は身を寄せあって蹲る。
「真弘の手は、あったかい」
「知ってます?手が冷たい人って心があったかいらしいですよ」
「あなたは逆ね。なんでそれ今言ったの?」
「分かりません!」
「はぁ……」
こんな時にまだコイツはと思う。だけどこれが真弘だ。バカでクズでクソの役にもたたないけど、本当に悪いヤツでは無い。
「……真弘」
「なんでしょう星那さん」
「噛んで、いい?」
「えー、ゾンビになるから嫌ですー」
「ずっと噛みつきたいと思ってた」
「星那さんエッチです!」
「なんでよ……」
この逼迫した現状でいつものような会話を交わし合う。それで少し心が落ち着いた。
「いいから喰わせて」
「肉を抉るつもりじゃないですかヤダー!真弘くん食糧じゃないですー!」
「それで回復するかも。大丈夫。あなたは私の中で生き続けるから」
「ちょっとどころか、丸っと全部残さず食べるつもりで?やめて、タベナイデ……」
「大丈夫。汚いところは残すから……。あぁ、それだと食べるところ無いわね……」
「全身汚物判定。マジつらたん……。でもワンチャン回復するかも知れないので、ちょっとなら食べてくれていいっすよ」
「…………バカ」
目の焦点はあわず、まともに見えない状況下でも、星那は寄り添う真弘の温もりを感じる。
身体から熱が抜けていく。もう自分は長くは無いとそう感じる。この感覚を朧気ながら覚えている。それは自分がウィルスに感染しゾンビとなった時の感覚。
またゾンビになる。
真弘から与えられた温もりで人間に戻れた。なのにその温もりが抜けていく。それがどうしようも無く怖くて、嫌で、どうしようもなくて、星那は傍にあったいつもの温もりに「がぶりっ」と噛み付いた。
「ギャー!ホントに噛み付いてきタァッ!いだいいだいっ!」
「……五月蝿い」
泣き喚く真弘に構わず、星那は本気で真弘に噛みつき、肉をエグった。
「……真弘」
「うぅ……。あい……」
「私、自分でも知らなかったんだけど……」
「……はい」
「独占欲……強いみたい」
「はい」
「だから……」
「…………」
「私の分まで生きて……なんて言いたくない」
「はい」
「そこに私は居ない」
「はい」
「だから」
「…………」
「1人は嫌だから」
「はい」
「ここで私と死んで?」
「嫌です!死にたくないです!」
「そっ……。じゃあ殺すね」
「ヤダー!死にたくないっ!」
ギャーギャーと喚きながらも、真弘は一切抵抗せずに星那を受け入れた。
「真弘」
「ひとつになったね」
「これで死んでも一緒に居られる」
「ずっと」
「実はね」
「最初は嫌いだったけど」
「今は好き」
「愛してる」
「恥ずかしくて言えなかったけど」
「あなたのこと愛してた」
「これからも」
「死んでしまっても」
「それでも」
「愛してる」
「こんな世界じゃなきゃ」
「こんなことにならなければ」
「もし次があるなら」
「もし時間が巻き戻るなら」
「今度は」
「普通に」
「愛し合って」
「それで……」
これまで数え切れないほど身体を重ねた真弘と星那の2人。だが、もしかしたら口からはウィルス感染するかもと口と口を接触させる事は1度もなかった……最後の1回を除いて。
ーーーーー
ルーリスリアは覚悟を決めた。
全てを捨ててでも真弘の元へ行くと、そう決心して彼女は世界を渡った。
そして、彼女は渡った世界で終焉を目にした。
燃え盛る大地、荒れ果てた街並み、蔓延るアンデッドの群れ……そこに生ける人間など存在しない。
真弘に聞いていた話と違うと悪態をつく。
絶望の広がりを前にしてルーリスリアは真弘の身を案じた。こんな世界であの何も出来ないバカがまともに生き残れるはずがない。だが、真弘が帰って間もない。まだ生きてはいる筈だ。ならば早く見つけ出して私が保護しなければと。
ルーリスリアは真弘を探した。
そして、ようやっと見つけた。
だが、それは一足遅く。
「なんで…………」
ルーリスリアは膝から崩れ落ちる。
既に手遅れだった。
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