プリンセス



異世界イヌマニーは邪神の復活に伴い、滅びの運命を辿っていた。


邪神軍はとても強く王国軍は劣勢を強いられた。その状況を打破すべく、王国は古より伝わりし困った時のお約束、異世界勇者召喚の儀を執り行うことになった。


召喚の儀によって異世界から勇者、鎌瀨大天と巻き込まれ一般ザコモブとして中里真弘が召喚された。


勇者大天はとても優秀だった。転移特典のチート能力は強力でとても無双したし、おまけに爽やか系イケメン。性格も真面目で誠実でまるで主人公みたいでとてもモテた。実際どっからどう見ても、どこぞのクズ男と違って主人公らしい主人公だった。そんなんだったのでイケメン勇者は無自覚美少女ハーレムを形成し、美少女に囲まれながら邪神軍と戦った。


勇者大天のおかけで王国軍は連戦連勝。破竹の快進撃を見せ形成は一気に王国軍側に傾いた。邪神四天王である狂戦士、捕食者、異星獣、暴食者を打ち倒し、残すところは邪神との最終決戦のみであった。



ーー最終決戦前日……。



「姫……この戦いが終わったら結婚しよう!」



邪神を倒せば元の世界に帰れる。しかし、勇者大天は戦いの中で出会った自身のハーレムメンバーを置いて元の世界に帰るのは気が引けた。皆が皆、自分のことを慕ってくれている。ならばその気持ちに応えたい。それが自分の責任だ。そう思い勇者大天は異世界に骨を埋める覚悟をしたのだ。


女性比率の高い異世界において複数の妻を娶ることが推奨されている。それが勇者となれば尚更。より多くの多くの妻を娶ることを求められた。元いた世界の常識に感情が引っ張られもしたが、ここではそういうものなのだと割り切って、勇者大天は決戦前に仲良くなった美少女達全員に自分との結婚を申し込んで回っていたのだ。


美少女達は皆、勇者大天のプロポーズを受け、喜んで妻になることを了承した。中には涙を流して喜んでくれる者さえいた。


勇者大天が最後にプロポーズした相手は王国の王女にして近衛騎士団団長であるルーリスリア・リリウム・リリサイトだった。


真面目で心優しく白百合のように可憐なルーリスリアはまさにみんなの王女様と呼ぶにふさわしい聖母の様な存在だった。ルーリスリアは勇者大天が異世界転移してからここまで生活面に戦闘面に多岐にわたり献身的なサポートをしてきた。


様々な美少女に囲まれながらも勇者大天は戦いの中で自分の本当の気持ちに気がついていた。自分が一番に愛しているのはこの王女ルーリスリアなのだと。


だからこそ勇者大天はルーリスリアに最後にプロポーズした。そして彼女も他の美少女達と同様に自分との結婚を喜んでくれるーー。



ーーそう思っていたのだが……。



「そ、そうですわね……あははっ……」



ルーリスリアは答えを絶妙に濁し、とても気まずそうに苦笑いを浮かべながら、勇者大天のプロポーズやり過ごした。



「えっと……姫……。何か気に食わないことでもあったかな……?その……やっぱりーー」


「あっ、とっ……!も、申し訳ありません勇者様!私、決戦前にやることがありまして……これで失礼させて頂きますわ!」



勇者大天が何か言うよりよ早くルーリスリアはそそくさとその場を後にした。


その場に1人取り残された勇者大天。ルーリスリアの様子に違和感を感じたが、きっと決戦前でナイーブになってたとかなんかそんなところだと思う多分……とそう思うことにした。





勇者大天と別れてルーリスリアは自室へと戻る。扉の鍵をしっかりと閉めて身につけていたドレスを脱ぎ捨てると変わりにとても王女様には似合わないボロボロのローブを羽織った。そして直ぐさま空間転移の魔法を発動して自室から転移する。


転移した先は貧民街にある風が吹けば崩れそうなボロ小屋だ。ルーリスリアはそこに住まうある男に会いに来た。


その男は昼間だというのにも関わらず家に籠りゴロゴロして怠惰を貪っていた。男のそんな姿を見たルーリスリアは呆れたようにため息を吐いた。



「……?あっ、ルーリス。おかえりー」


「おかえりじゃありませんよ……。まったくマヒロはまた昼間からゴロゴロして、部屋もこんなに散らかして、食事もとった様子がありませんね……食事の用意は私がしますのでマヒロはその間に部屋を少し片付けてください!」


「へい」


「返事はハイです!」


「はーい」


「伸ばさない!」


「はい」



渋々と部屋の片付けを始めた真弘を背にルーリスリアはいつもの様に食事の準備に取り掛かる。



勇者大天の召喚に巻き込まれ異世界転移した中里真弘。真弘はなんのチート能力も貰えず、元からの性格もあり、異世界人だからとはいえクソの役にも立たなかった。結果、真弘は城に引きこもって自堕落な生活を送っていたのだが、いつしか無駄飯ぐらいは城から叩き出された。最後の情けとして貧民街の片隅にあった使われていないボロ小屋を宛てがわれたが、なんの生活能力もないクソなだけな一般人の真弘がまともに生活していける訳もなく……。


どうしたもんかと思う真弘。そう悩んでいた時にタイミングよく心優しいルーリスリアが真弘を心配して様子を見に来た。


様子を見に来てしまった。


真弘はルーリスリアに泣きついた。


そうしてダメ男とそれが放っておけないキャリアウーマンの様な二人の関係が始まった。










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