エイリアン&サーチ
お知らせ
前話加筆しました。よろしかったらどうぞ
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上流階級家庭に生まれた江東初唯は三姉妹の次女で、姉妹の中で唯一の落ちこぼれだった。
立派な長女と出来の良い三女の間に挟まれた初唯だけがグズでノロマで何をやってもダメな出来損ないだった。成績は悪く、運動が出来る訳でもない。これといった特技も無い。姉妹のみならず、両親からも爪弾きにされ。オマエはうちの子ではないなど居ないものとして扱われた。
家に居場所は無い。かといって学校に居場所があるわけでもなかった。幼い時から存在否定されて育った初唯の性格は鬱屈として内向的。人との会話も上手く出来ず、笑い方も何処か気味が悪い。それが原因で周りから敬遠されて友達と呼べるものはひとりも居なかった。孤立していたが幸いだったのはイジメなどには発展しなかったことか。初唯の実家は教師さえも気を使う上流階級として恐れられていたからだ。
何処にも居場所は無い。誰からも相手にされない初唯が引きこもりになるのは必然だった。我が家の膿が外で恥を晒すよりはマシかと両親はそれを黙認し金だけ与えて放置した。
アニメにゲームにマンガにラノベに。1人の部屋で初唯は空想の世界に入り浸る。その中で初唯が特にハマったのがネットゲームだった。今の自分では無い自分になれた。自分ではあるが自分では無い自分。現実ではないこの仮想現実は平等だった。敵を倒せば経験値が貰えてレベルが上がる。現実にレベルは無い。いくらやってもレベルは上がらない成長しない努力したところで何も報われない。レベルという目に見える形で努力した結果が如実に出ることが楽しかった。ここでなら自分は強くなれる。強くなればなっただけ他のプレイヤーから注目を浴びた。それが心地いい。
しかし、現実で致命的なコミュニケーション障害の初唯がゲームの中だからといっても上手く出来る訳では無かった。
人との会話の仕方がわからない。他のプレイヤーからパーティーに誘われ、一緒にプレイすることもあったが、協調性のかけらも持ち合わせていない初唯のワンマンプレイは逆にメンバーに迷惑をかけた。いくら強くてもコレではいない方がマシだと言われたこともあった。やはり初唯はここでも孤立することになる。
強くなった、そう勘違いしていた。
結局、現実でもゲームの中でも自分はやはり自分で、ひとりぼっちのままなのだ。
もう辞めてしまおうかと思った。そんな時にあるプレイヤーと出会った。
(なんかソロでめちゃくちゃ強そうなプレイヤーおる……。粘着して寄生したろ!)
「すいませーん!自分初心者なんですけど助けてください!」
それからめちゃくちゃ粘着されて、めちゃくちゃ寄生された。
「うわ強すぎ!素敵!凄い!カッコイイ!いつも頼りにしてます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
めちゃくちゃヨイショされた。
都合のいい言葉ばかりを羅列して全力でご機嫌取りをしてくる、そのプレイヤー。普通のプレイヤーならばそんな言葉を並べられたところで、ほぼなんの働きも成果も上げないソイツに対して不信感しか抱かない所だが、これがまた初唯に対しては絶大な効果を発揮した。
褒めてくれる。頼ってくれる。感謝を捧げてくれる。一緒にいてくれる(付きまとってるだけ)。
認められた気がした。結果、初唯はそのプレイヤーにすっかり惚れ込んでしまった。
「えっ、中の人は女の子なん?マジそれホント?歳いくつ?どこ住み?通話とか出来る?実際に会えたりする?ってかラ〇ンやってるぅー?」
会話の拍子に初唯が自分が女であることを教えてしまった。そこかさらに粘着が強まった。中身が女と知ればこの態度。普通なら出会い厨クソ死ねと罵って即ブロ安定だが、しかし初唯は違った。
ゲームの中だけじゃなく現実の自分にも興味を持ってくれて、必要としてくれて、一緒にいたいと思ってくれて、これからの人生を共に歩んでいきたいと言ってくれた(極大解釈)。
初唯は舞い上がって、拗らせて、そして暴走した。
実際に会いたい。
会いたい会いたい会いたい。
「でゅふっ、でゅふふふふふッッッ!」
薄暗い部屋。モニターから発せられる淡い光に照らされて初唯は気味の悪い笑みを浮かべる。
そこからの初唯の行動は、凄まじかった。
会いたい。今すぐに会いたい。約束の日まで待ってなどいられない。彼だってその筈だ。だったらこちらから会いに行こう。そうした方が喜んでもらえる間違いない。ユーザーネームからSNSアカウントを見つけた。投稿した画像にリアルの画像がある。凡その住所を特定。名前、年齢、生年月日、住所、家族構成、趣味、好物……特定特定特定。
ーーみぃつけた……。
しかし、初唯が見つけ出した、その害悪プレイヤーと対面で会うことはしなかった。
探し出して、会いに来て、ひと目見た瞬間には、もう2人は結ばれたからだ(?)。
理屈も常識も何もかもを置き去りにして初唯はただひたすらにブレーキが壊れた新幹線の如く爆走した。その思考回路は常人には到底理解出来ないモノとなっていた。
「ンボホォッ!オッふっ……。真弘先輩ボクのこと好きすぎぃ……ゲヘッ!ボクも愛愛愛してますよぉ……誰よりも何よりも、もうアナタ以外なにも必要ありません。その気持ちは2人で一緒で変わりませんよね?大丈夫です。ちゃぁんと分かってますから……けひっ、ヒヒヒヒヒヒッ……!」
部屋の床、壁、天井に所狭しと写真が貼り付けられている。ヘッドホンから流れる盗聴した声。使い古されて廃棄された筈の下着を片手に、寸分の狂いなく作られた実寸大のお人形さんに跨り、のたうち回る。
「ふぅ……。これも匂いが薄れてきました。また新しいのを……いえ、そろそろ練習は充分。たくさん、たくさん練習しました。だからもう本番……げひっ、本番本番。またせちゃってますから、もう我慢の限界ですね?でへっ、もももももうまたなくていいですよぉ。そう。今から、今から会いに行きますので……うひひひっ……!」
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