チェイサー&エイリアン



猛る魔獣が2匹おったそうな。


いと容易く、両の手では数え切れないほどの生命を亡き者にしてきたであろうというのは、その鋭すぎる視線から容易に想像がついた。歴戦の強者でも泣いて逃げ出すような眼力が俺氏を射抜く。おしっこ漏れそう。


もう無理。これはダメ。冗談抜きで今度こそ確実に殺される。死ぬ死ぬ。


もはや何を言っても無駄だろう。いやまあ、元から俺の話なんか一切聞かないしね、コイツら。


もう逃げるしかない。そう思った。


俺の判断は早かった。魔獣2匹が振り返り、目と目が合ったその瞬間にはもう床を蹴り、回れ右して、家の中へと走り出した。


逃げろ逃げろ逃げろ。死にたくなかったら今あるありったけを振り絞って逃げるんだ。


しかし、家の中に逃走したところで逃げられる場所は限られている。いずれは追い詰められて殺されるだろう。だったらどうする。もういっそのこと家の外に逃げるか。その方がまだ生き残る可能性はある。やっぱり外に逃げよう。


台所の勝手口。そこから家の外に出られる。まずはそこから外に出るのだ。


討伐推奨レベルSSS+EXの災害指定特級魔獣2匹が放し飼いされている我が家は、もはやクリア後特典の鬼畜難度エンドコンテンツダンジョンと化した。こんなところに居ては命がいつくあっても足りない。なんとして脱出しなければならない。命はひとつしかない大切なモノなの。死んだらそこでコンティニュー不可なの。現実はゲームじゃないの。ところで あなぬけのひも とか キメラのつばさ とか便利アイテムどっかに転がって無いかな?無いかー。


振り返らずともわかる。背中に明確な殺意を感じる。心臓を鷲掴みされたような強大なプレッシャーが重圧となってのしかかってくる。無理無理無理。キャッチ&デストロイ待ったナシ。嫌じゃー!


転がり込むようにリビングに入り、その先のキッチン、そして勝手口へ。なんでか知らないけど俺の逃げ足はそれなりに速い。別に普段から追い回されてるから鍛えられてるとかでは無い。ホントだよ?


イケるか……?


チラリと背後を確認すると追ってくる詩良先輩の姿が見えた。


それに違和感を覚える。


美希が……居ない?


あの状況。美希の事だ。追ってこないとは考えられない。ならば何故いない。


悪寒と共に瞬時に悟る。


俺と美希は付き合いの長い幼なじみである。お互いにどういう思考をしているかは理解している。そして、美希から逃走しようと試みたことは割とある。美希来訪と共に勝手口を使って外に逃げたことも多々あり、最近はそれを読まれて勝手口で待ち伏せされたこともあった。


となれば美希は俺の逃走経路を予想し勝手口の方に先回りしたのではないか?


ありうる。って、いうかほぼほぼ正解だろうね。勝手口を開けたら美希さんとランデブー&デストロイですね。分かります。


クソがッ。勝手口はダメだ。だったらどうする。何処から外に出れば逃げれる。考えろ。


1階の外に出られる逃走経路は全て使ったことがある。となればその全てが美希に読まれて先回りされる可能性があり、危険だ。


まだ一度も使ったことがない逃げ道を探せ。考えろ、考えるんだ。



ハッ……!思いついたぞ!



そうだ。何も1階からだけが外に出れる訳じゃない。2階だ。2階からも一応外に出られる。そして、そっちからはまだ逃走したことは無い。これなら美希の裏をかける。


……俺の部屋のベランダーー。


あそこからなら多分だが塀伝いに下に降りられる。そこだ。このダンジョンから脱出するにはそこしか無い!


それにだ。俺の部屋には今現在、愛しの灯多理ちゃんが隠れ潜んでいる。もうこうなってしまったのなら灯多理ちゃんの存在がバレようが何しようが関係ない。


自部屋を通過する際についでに灯多理ちゃんを回収してダンジョン外に2人で逃げる。あとなんとか頑張って魔獣共を撒いてバックれれば、そのまま灯多理ちゃんと2人でめくるめく桃色ランデブーよ。えっ、俺ちゃん頭良すぎん?天才かよー。しゃっ!やってやるぜ!


急速方向転換。キッチンに向かわずリビングのもうひとつの扉から廊下に出て階段へ走る。


階段を駆け上がり2階。俺の部屋の前に到着。


そして、ドアノブを手に取り、勢いよく扉を開け放つ。




「お”ほっ!真弘先輩ッ!真弘しぇんぱいッ!イグッ……!イグぅぅぅぅッッ!」




ベットの上で見知らぬ女子がのたうち回っていた。



「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ちぇんぱいのしゅごいいいいいッッッ!!!」



それを見て俺は困惑のあまりドアノブを手にした状態で固まった。



マジで……誰……?



「おんぼろびゅるべるっおんおんぼんっびゅほぉんほぉんぼぉおっほぉおおおおんぎぃいイッきゅうィイイイイッッッ!!!」



ビクンッ!ビクンッ!



なんかめちゃくちゃ奇声を発してるんだけど……ナニアレ……?


地球外生命体か何かですか。とても人類には見えない。宇宙人?それならギリと納得は出来る。理解は出来ないけど。


なるほどな。さっき俺の部屋に突撃してきた美希の気持ちがよく分かったわ。こういう気持ちね。理解理解。



「イカくさっ」



バタンッ!



俺は扉を勢いよく閉めた。



そして直ぐに俺を追ってきていた詩良先輩に捕獲されてしまう。



「真弘、捕まえたよ。もう逃げられーー」


「詩良先輩ぃいいい!助けてッ!俺の部屋になんか居る!なんか変なの居る!宇宙人!宇宙人おるっ!宇宙人が俺の部屋の俺のベットで俺をオカズに奇声を発しながらオナッてたんですけど!?ホント怖い!なんなのアレ!ヘルプ!助けて詩良先輩ッッッ!!!」



俺はあまりの恐怖に詩良先輩に泣きついた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る