ハングリー
「うわーんっ!真弘くんたすけておくれよぉおお!ふぇぇえんっ!」
「ごほぉっ!?!!」
玄関を開けると涙目の女子が俺に飛びついてきた。突然の奇襲を受けて俺は為す術なく涙目女子に玄関で押し倒されてしまった。強かに背中を床にぶつける。普通に痛い。
「うぐっ……ひっぐっ……!また両親が帰ってこなくなってお金も食料も尽きてしまったんだよぉ……!もうお腹すいて死にそうなんだ……!助けてくれよ真弘くぅんっ!」
ガッシリと腕で胴体を抱きしめつつ両足で腰をホールドし、俺にしがみつく涙目女子。そして、ビービーと俺の胸に顔埋めながら泣きじゃくる。まさにギャン泣き。鼻水まで垂らしてる。
「クソッ……コノっ……!急になんなんだ!?離れろ……ボケ!」
「嫌だァ!食糧恵んでくれるまで僕は離れないぞッ!」
引き離そうともがいてみるが、「嫌だ!」「お腹空いた!」「餓死する!」と一向に離れようとしないコイツは同級生の波子である。まったく知らない奴では無い。そこそこ交流はある奴だ。
それが美希、詩良先輩に続く本日3人目の来訪者の正体である。
コイツとの関係は説明は長くなるので一旦置いておく。それよりも何よりも今はコイツを引き離さねばならない。
波子とくんずほぐれつしている俺を冷ややかな目で見下ろす4つの瞳がある。そうです。美希と詩良先輩です。現在、2人の自称彼女達は俺と波子を人殺しの目付きで見下ろしています。その瞳は雄弁に語ります「おい、その女はなんだ?」と。
違うの!これは違うの!波子とは……その……えっと……。とにかく違うの!←
「とりあえず落ち着け!そして一旦離れろッ!」
「ゴハンくれる?」
「くれる!くれる!ゴハンあげるから離れて!ホント離れて!」
「ホントに!?」
「ホントにホントに!だから離れて!お願いだから!」
「わかった!ありがとう真弘くん!やっぱりいざとなったら真弘くんだね!キミを頼ってきてよかったよ!」
パッと顔輝かせて、ようやっと波子は俺の胸から顔を上げる。
ふう……。とりあえずこのバカを引き離せそうだ。さて、問題はここからだぞ。波子のことを今も尚、静かに恐ろしい瞳で見下ろしてくる魔獣2匹になんと説明しようか。下手を打てばこの場で即リンチ再開の空気感。
だが、まだ大丈夫の筈だ。波子は明らかに腹が減ってメシをタカりに来訪したと思われる。コイツには適当に餌を与えて即ご帰宅頂けば話が拗れる事は無いはずだ。
実は俺と波子がやんごとなき関係があるとしても、この場でソレがバレなければ、さらなる制裁の追加には至らない筈だ。
だからね。波子よ。餌はちゃんとくれるから、余計な事はしないで直ぐに帰ってね?お願いだよ?絶対余計な事をするんじゃないぞ?絶対に絶対、余計な事はするなよ?フリじゃないからな?ホント直ぐに帰ってね?もっかい言うぞ?フリじゃないからな?余計な事するなよ?いいな?わかったな?
「あっ、ゴハン貰うならいつものヤツ必要だよね?うん!僕はちゃんと分かっているよ!キミに散々教えてもらったからね!とりあえず先払いしとくね!」
あっ、ヤバっ。
「ぶちゅぅぅぅううううっっっ♡♡♡」
「ンンンンンンンッッッ!?!!」
ガッシリ両手で俺の頭は固定される。
迫りくる波子の顔面。
止める暇などなく。
波子の唇が俺の唇に吸い付いてきた。
これは所謂、キッスと呼ばれる行為である。
あー、めっちゃ吸われるわー。
…………。
過去回想(現実逃避)ッ!
「お腹空いた……餓死する……」
「なにやってんの?大丈夫?」
「何か……食べ物……」
「しょうがないなぁ。ほら、お食べ」
「……ッ!?ありがとう!ムシャムシャムシャ!」
「いい食べっぷり。もっと食べる?」
「食べる!」
「おっと、待ちな。これ以上は有料だ。払うもの払ってもらおうか」
「そんな……!僕、お金持って無いよ……」
「金が無いなら……どうすればいいかわかるな?」
「分からないよ?どうすればいいんだい?」
「簡単な話だ。代金は身体で払ってもらえばいいだけの事」
「分かった!身体で払うよ!」
という感じでゴハンの代金は身体で払ってもらった。これが俺と波子の関係である。俺が食べ物を用意し、それの代金を波子は身体で払う。そんな爛れた関係である。
現実逃避(過去回想)終わりッ!
「ぷはっ……!」
長い長い時を経て波子は唇を離した。とても満足気な表情をしておる。対して俺は虚ろな瞳で、俺達を見下ろす2人の処刑人を見上げていた。
コレは今度こそ確実に殺されるね。間違いない。
「あれ?どうしたんだい真弘くん。こうしてキスをするといつもなら喜んでくれーー」
ガシッ!×2
「ふぇ……?」
美希と詩良先輩の2人が波子を掴んで持ち上げた。2人でとはいえそんな軽々と人一人持ち上げます?凄いなぁ(しみじみ)
そこからぁ!
振りかぶってぇ!
「のわぁああああッッッ!!?!」
投げたッーーー!!!
まるでゴミのように波子は綺麗な放物線を描いて飛んで行った。
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