バーサーカー&プレデター&





「ちょっと締めるね」



ミシミシミシッ……。



腐った床を踏んだ時のような音が鳴る。それはどう考えても人体から鳴るような音では無いのだが、何を隠そう俺の身体から鳴っているのである。


俺の全身に蛇のように巻きついた詩良先輩が容赦なく締め上げてくる。これいつものヤツ。コブラツイストってヤツ。アカン方向にぃ、関節がぁ、曲がっちゃうぅ。非常に痛い。



「ちょっと殴る」



そして、そんな関節技を詩良先輩にキメられ死に体の俺を容赦なく殴りつけるド畜生がおる。既にご存知であろう。幼なじみの美希である。


とりあえず顔顔顔からの腹腹腹。勿論、拳はグーでキツく握られている。グーパンだ。一切の躊躇も容赦も無く、加減も知らない強打を乱打してくる。顔面ボッコボコですよ、ええ。


本作がラブコメで本当に良かったと思う。現実だったら間違い無く死んでたよ、うん。マジで容赦ないもんコイツら。絶対、俺を殺す気だよコレ。でも大丈夫、コメディだから。場面転換して次のシーンに移ればこのボコボコに腫れ上がった顔とか治ってるはずだから。治ってるよね?ふう……。だんだん夢と現実の区別がつかなくなってきたね。そろそろこのリンチ終わらん?終わらんかー。ですよねー。


それにしても美希と詩良先輩なかなかのコンビネーションしてるじゃん?俺をボッコにするの息ぴったりじゃない?初対面なのにもう意気投合しちゃった感じ?まぁ、2人ちょっと雰囲気とか諸々が似てるしね。美希と詩良先輩は歳も同じだしね。


そうなんだよね。実は美希って俺の1個年上で詩良先輩と同い歳。


ついでに美希とは別々の学校に通っている。


それは何故か?年々バーサーカーと化していく美希に恐れをなした俺が美希には内緒でコッソリ別の高校を受験して受かったからである。ちょっとね。美希とは距離を置きたかったんです。怖いから。


美希には「真弘は私と同じ高校」と念押されていた。それに俺は「がんばる!」「絶対受かる!」と返した。そうですね。美希と同じ高校に行くとは頑なに言いませんでしたね。はい、嘘はついてませんでしたが全力で誤魔化してました。そんなんあって俺は美希とは別の高校へと進学した訳だ。


高校の入学式に俺を迎えに来た美希は自分の高校の制服では無い制服を着た俺を目撃。そこで俺が別の高校に進学したことがバレた。俺との学校生活を楽しみにしていたであろう美希には悪いことをしたとは思う。罪悪感も少なからずあった。でも、それから怒り狂った美希には1ヶ月間毎日半殺しにされたのでチャラだと思う。禊は果たした。そのおかげでね。入学早々、毎日ボロ雑巾になって登校してくる俺を気味悪がったクラスメイト達には敬遠され友達は全く出来なかった。これがボロ雑巾高校デビューってヤツだね。聞いたことねえよ。もっかい言う。禊は果たした。


そして今日も今日とて俺はボロ雑巾。本日は詩良先輩も加わって絞られてます。もう雑巾絞りは充分だと思うんだ。だからもう解放して。お願いお願い。


朦朧とする意識の中……神に祈る。


我を解放せよ、と。


敬虔な願いは神へと届く。


神からの返答。



「固めるね」


「蹴る」



卍固めとローキックだった。


ねえねえ。そろそろ良くない?ホント死ぬよ?



……ピンポーンーー。



それは祝福を告げる鐘の音か、はたまた終末を告げる鐘の音か。本日二度目の家のチャイムが鳴った。


また来訪者だと……?


なんだろね。なんか物凄く嫌な予感がするんだけどね。このタイミングの来訪者って一体全体誰が来たってのかね。



「「…………」」



チャイムを聞いてバーサーカー&プレデターの動きがピタリと止まる。とりあえず一旦助かったか?



「「真弘、誰……?」」



2人の声が重なった。息ピッタリじゃん。言葉足りない感じも一緒じゃん。「真弘、誰……?」じゃねーのよ。ちゃんと「真弘、誰か来たみたいだけど誰を呼んだの?」って言ってね?そんなお二人の言外のニュアンスは俺じゃなきゃわからんからね?



「いや、知らんけど」



そう問われても等の俺氏には来訪者の心当たりは全くない。そも灯多理ちゃんとイチャろうと家に連れ込んだ俺が他にも誰か呼ぶなんてイカれた真似は流石にしない。そして、アナタ達のことも呼んでないです。俺の事をサンドバッグにして遊びたいのは分かるけど帰って欲しい。ほんとかえってよぉ……!



「「…………(ジト目)」」



そんな目で見られても……。エスパーじゃないんだから確認しないと分からんて……。


美希と詩良先輩が俺を暫く見詰めていると早く出てこいとばかりに2度目のチャイムが鳴った。来訪者はわりとせっかちのようで。


それを聞いて2人は俺から目を離して見つめあった。無言の無表情だが、目と目で会話でもしてそうな雰囲気。


コクリと2人同時に頷く。どうやら話し合い(?)に決着がついたようだ。流石に一言も発してないと俺にも察せない。どういう感じでまとまったの?お願い声出して俺にも教えて。



ガシリッ!×2



右腕を美希、左腕は詩良先輩に掴まれて持ち上げられた。



「もしかして3人でお出迎えする感じかな?」


「「…………」」



返答は無い、代わりに俺は2人に担がれズルズルと玄関の方へと引きづられていく。うむ。やはりこのまま行く感じか。なるほどね。



「あの……自分で歩けるから離して」


「「…………」」



美希のグーパンが脇腹に突き刺さり、詩良先輩が俺の腕を捻りあげた。痛い痛い痛い。はい。もう余計なこと言いません。お二人の言う通りに致しますッ。





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