バーサーカー&プレデター



「…………」


「…………」


「…………」



俺に見落としが合ったとするなら、それは美希と詩良先輩の2人が非常に似たもの同士で極度の人見知りだったということだろうか。


俺に対しては遠慮も容赦も慈悲も血も涙もない魔獣2匹だが、コレは俺にだけなのであった。俺は「こいつはバカだから何やっても大丈夫」と思われてるところはあるからこそである。


しかし、それが全く見ず知らずの赤の他人で面識の無い初対面の人となると話は別だ。


結果、死ぬ程気まずい地獄のような空気感になっている。


コイツらよくよく見たらお互い俺を挟んで絶妙に目を合わせないようにしてやがる。ちょっと身体を前後に動かすとそれに合わせて微妙に動いてポジショニングを調整しておる。俺さんは仕切りじゃねーんですよ?


いつもの調子はどうしたバーサーカー?自分のヤリたいことには素直に正直に行動し、人の都合など知ったことかと容赦なく俺を血祭りにあげる狂戦士は何処に行った?来訪者にビビる飼い猫じゃないんだから……。オマエさんはそんな可愛らしい存在ではなかろう?ほらほらいつもみたいにグーパン!グーパン!


そして、こっちもこっちでさっきの調子はどうしたプレデター?ほんのちょっと前まで明らかな戦闘準備モードだったじゃん。邪魔者は全て喰らいつくしてやるって感じの完璧捕食者だったじゃん。それがなんなのよ急に大人しくなって。借りてきた猫じゃないんだから……。オマエさんはそんな可愛らしい存在ではなかろう?ほらほらいつもみたいに関節を締め付ける奴!コブラツイスト!コブラツイスト!



「…………」


「…………」


「…………」



しかし、俺の思いとは裏腹に状況は全く動かず地獄のような空気継続中。


まぁ……。美希が俺以外の人類とまともに会話ーーどころか接しているところってほぼ見たことないし。詩良先輩も詩良先輩でだいたいぼっちだし。どっちもコミュ障拗らせてんだよね。この内弁慶共が。


どうすんだい、コレ。そろそろ足が痺れて限界なんですが。テーブルから降りていいかな?ダメ?ダメかー……。


どれだけ時間が経ったのか……。最初に動いたのは美希だった。


美希は音もなく立ち上がり、俺に近づき、耳に手を当て、口を寄せてくる。



「ひそひそ」



とても小声。美希は俺の耳元で囁く。


美希は俺に『真弘の彼女は私……伝えて』と、申し付けてきた。


なるほどね。直接言うのアレだから俺をメッセンジャーに仕立てようってわけね。それで自分の主張を相手に伝えようっていう魂胆ね。なるほどね。うん。わりとそれは直接言って欲しさある。


美希はやりきった感を出して席に戻った。そして俺を見て「さっさと伝えろや」と目で訴えてくる。


それを見た詩良先輩も動いた。音も立てず立ち上がり、俺に近づき、耳に手を当て、口を寄せてくる。



「こそこそ」



とても小声。詩良先輩は俺の耳元で囁く。


詩良先輩は俺に『真弘の彼女は私……伝えて』と、申し付けてきた。


全くの同文なんですが……。もしかして美希のヒソヒソ声聞こえてましたか詩良先輩?


ふむ……。これをお互いに伝えなきゃならんの、俺?えー、ヤダー。


しかし、2人ともコミュ障を拗らせてるなりに勇気を出して行動してくれたのだ。だったら、ここは俺も動かない訳にはいくまい。


一旦、俺の「どっちも彼女じゃありません」という主張は置いておくとしよう。今やるべき事は2人の主張をそれぞれに届けることだと思う。多分。なんか合ってない気はする。ダメだったらそん時はそん時。失敗は次の成功の糧となる。トライ&エラー。次があるかは知らんけど。



「2人とも俺の彼女です!」



2人まとめて伝えてみた。



ガタッ!×2


ガシィッ!×2



俺の発言を受けて2人は同時に立ち上がった。そして、それぞれが俺の2本ある腕を1本づつ掴んだ。2人揃って相も変わらず、なんの感情も見いだせない無表情ではあった。だが、付き合いの長い俺はそんな表情からも明確に2人の殺意を読み取った。


殺意である。悟る。コレ多分、次は無い。


これもしかしてアレかな?アレ始まっちゃう奴かな、アレ。アレだよ。アレアレ。



「「…………」」


「あ”あ”あ”あ”あ”あッッッーー!!!」



位置についてよーいドン!で始まったのは綱引きである。


綱は俺。赤組美希。白組詩良先輩に分かれて運動会の火蓋はきっておとされた。


漫画みたい!漫画みたいだいいだいいだいいだいぃぃぃ!?!!ちょっ、マジでコイツらどんな馬鹿力してんの!?JKどころか人類が発揮していい力じゃないんですけど!?腕とれるどころか頭から真っ二つに裂けちゃうっ!肉がッ!肉が裂けるッ!


ははーん?賢い俺ちゃんは分かってしまったぞ。これはアレだ。2人で俺の腕を引っ張りあって俺の取り合いをしてると見せかけて、2人強力プレイで俺の事を真っ二つに引き裂いて亡き者にしてやるってそういうことでしょ?だってこんなにも殺意に満ち溢れているんですもの。どう見ても俺を殺す気だもん。間違いないね。


俺の見立てはやはり当たっていてバーサーカーとプレデターの戦闘力はほぼ互角だ。現に綱引きが始まってからも俺の身体がどちらかに傾くことは無く、2匹の力関係は拮抗している。


まっ、だからこそ裂けちゃいそうなんですけどね。


頭頂部から裂けるか、股から裂けるか、俺の命運や如何に。












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