第4話【傲慢な花婿】

 謁見の間には、一目ぼれした可愛い少女の到着を今か今かと待ち構える国王、アスランの姿があった。その両脇には、四大貴族のミハエル公爵を除く三人が控えている。


 玉座に座り、アルルの到着を待つアスランは、アルルと初めて出会ったときのことを思い出していた。

 ミハエル公爵邸の一室で、彼女を目にしたときの衝撃をアスランは今でも覚えている。

 雷に撃たれたかのような…と形容される事があるが、まさにその通り。


 ミハエル公爵の娘、ユーミルのメイドとして、彼女の後ろに控えていたアルル。

 顔を見たのは一瞬。しかし、その一瞬でアスランはアルルの虜になった。

 その容姿と立場故に、黙っていても女性は選り取りみどりだったアスラン。己が娘をアスランの側室にと、差し出す貴族は沢山居た。


 側室の子でも、能力があれば王になれるのが、バーレン王国。

 そうなれば、国王の親族となる事が出来る。

 親類になれたからといって、国の上に立てる訳ではないのだが、それでも多少有利にはなる。


 そんな理由で、アスランには数多くの貴族の娘が側室に入った。故に、黙っていても女性が手元に転がり込んでくるような立場に居るアスランは、恋というものに無縁な人間だったのだ。


 しかしそれが、アルルという少女に出会って変わった。

 側室など要らない。アルル一人だけ傍にいればそれでいい。あの、美しい琥珀色の瞳が自分を見つめていてくれるなら、それだけで幸せだ。


 アスランは、そう思って夢中になる程、アルルを恋してしまった。

 アルルと出会った日、本当ならもっと彼女と話をしたかった。けれど、公務の途中であった為、それが出来ず。

 しかし、アスランは、もうその時にアルルとの結婚を心に決めてしまっていた。


 アルルの気持ちはお構いなしな状態だったが、王の妻に望まれて、喜ばない娘は居ない。他に想う男性が居ない限り、王に見初められて王妃になる事を嫌がる事などないだろう。


 アルルに、男の影はないとミハエル公爵から聞いた事もあり、きっと彼女はこの結婚を喜んでいるに違いない。側室として望まれる事ですら、光栄な事なのだから。

 アスランはそう確信していた。


 しかし、アスランのその思惑は、大はずれだった。

 謁見の間にミハエル公爵に連れられてやってきたアルルの様子は喜びに満ちたものではない。玉座に座るアスランの前に居るアルルは、不安そうな顔で…。そして、脅えたように震えていた。


「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう…」

 そんな社交辞令を口にしながらアルルはにっこり微笑む。

 しかし、その琥珀色の瞳に脅えの光を宿し、白いドレスに包まれた肩は震えている。


 それだけで、アルルが自分の妻になる事を望んでいなかった事にアスランは気付いた。

 そして、己がとんでもない失態を犯してしまった事にも……。










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