第4話 エンゼルストロー

「あれっ、ルナじゃないか」

「本当、ルナちゃんと一緒にいる人誰?」

「見たことないな」


 最近、出店したばかりのファンシーショップに来ていた一之介とあきこは、店の外に出てウインドウ越しにふたりの様子を窺がった。

 すらりと背の高い男性は銀縁メガネがよく似合い、いかにも聡明そうでシャープなイメージがした。


「こりゃ、まずいぞ」

「えっ、どうして?」

「あいつアクちゃんの若かりし頃にそっくり。ルナは子どもの頃、オトちゃんのパパに夢中だったんだ」

「あちゃまあ。ところでふたり色違いのペアルックのセーター着ているよ」

「うわあ」


 一之介は言葉を発せなくなった。


 店内のルナはティーカップを手に取ったり、からくり時計を動かしてみたりと忙しい。


 あいつら、まさか新婚家庭の準備か?


 男がウサギの耳の付いたピンクの耳当てをルナにつけている。

 ルナがキャッキャッとはしゃいで、鏡を覗いている。


 ぼくもあきこちゃんとあんなことしたかったよ。


「だめだ、あいつら1日中この店で遊ぶつもりだ。きりがない、帰ろう」


 あきこの手を取って一之介は歩きだした。




 しばらく行くと人の波の途絶えた道筋にカフェがあり、コーラのグラスを2個持って奥のテラス席に向かった。

 そこには遼平とユイの姿があった。

 どうやら一つのアイスコーヒーに、ハート形のふたつの飲み口のあるストローを差して、お互いの額を密着し合っていたようだ。


 しまった。エンゼルプレゼント使うの忘れてた。


 カップル限定のサービスだった。


「お楽しみのところ悪いね」

「何だよ、向こうの席に座れよ」

「そうもいかないんだ」

「どうした?」

「作戦変更だよ」


 一之介が突然身を屈めた。


「どうしたんだよ?」

「来てるんだよ、あいつら、ここはデートコースなのか?」


 遼平が振り返ると、エンゼルストローを真ん中に挟んだカップルが座っていた。

 テラス席もあるのねと外を見たルナと視線が合ってしまった。


「お兄ちゃん」

「おお」


 隣の席に移って来た男性は立ったままで、


「わたし、五十嵐カズドーナと申します。アメリカのコゥターで慶應義塾医学部の4年です。ルナさんとお付き合いさせていただいてます」

「おお」

「お兄ちゃん、さっきから、おおしか言ってないよ。カズさんが名乗ってるんだからちゃんと返したらどう。武士道に反するよ」


 遼平は小さく咳払いして立ち上がった。


「長男の遼平です。東大の4年。今度卒業です。同じ年ですね。こちらはおれの彼女のユイさんです」


 ユイが会釈すると、今度は一之介が立ち上がった。


「次男の一之介。東大の3年。こちらぼくの彼女のあきこさん」


 あきこも軽く会釈をした。


「ルナちゃんにはお兄さんがふたりもいるのか、頼もしいな」






🏠KAZUDONAさん、お名前お借りしました。ありがとうございました。


作品『OVERKILL(オーバーキル)~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653523704177










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