第3話 酢豚

「ヨッシーの浮気者」

「浮気者って、彼氏でも何でもないって言ってたのはルナだよ」

「でも、まさか3歳年下の従姉妹に取られるとは思っていなかった」


 ああ、ミカがそれは仕方ないと言う。


「あの鍛錬されたボディ、女のあたしでもうっとりとしちゃう」

「だよね、胸もしっかりとあるし」


 カエデが追い打ちをかける。

 スプーンを置いて、ルナは自分の胸を両手で掬い上げた。

 ナイ!



「何と言ってもバレンタインのチョコレートがよくなかったのよね」

「そうそう、ミカがヨッシーの立場なら、なめとんのかって感じ」

「もういい。ルナ、恋の相手を探す」


 拍手が起こった。


「おお、それでこそ我らがルナ」

「ルナの前途にかんぱーい」


 カチン

水の入ったグラスを打ち合わせた。


「ところでブリュ、最近見かけないね」

「フランスに帰るって言ってたから、まだ向こうにいるんじゃない」


 昨夜は晩御飯抜きで、今朝は遅刻しそうになって朝ご飯抜き。

 さすがに空腹を覚え夢中でオムライスを掻き込んだ。


「そんなに急いで食べるとむせるよ」

「だって、もうこんな時間。ヨッシーの話してたから遅くなっちゃった」






「あれっ、ルナちゃん」

「カズさん」

「名前を憶えていてくれて嬉しいよ。フミヤに会いに来たの?」

「うん」

「あいつ、最近サボってばっかで医者になるつもりあるのかな。ルナちゃん、お昼まだだろう。学食でおごってあげるよ」


 4時限目の授業をさぼってフミヤの大学まで来たのにがっかり。


「何にする?」

「あっ、酢豚がある」

「じゃ、それにするか」


 大盛りを頼んだわけでもないのに、酢豚もご飯も盛り盛り。


「こんなに食べられるかな?」

「残せばいいよ。あともらうし」

「酢豚にご飯入れてもいい?」

「うちの妹と同じ食べ方だ。もちろんいいよ」


 ルナはテーブルの上のカラトリーケースからスプーンを摘まみあげると、酢豚を半分に分け、ご飯を半分入れた。

 ご飯に酢豚のたれが絡んでたまらない。


「こちらのお嬢ちゃん美味しそうに食べるわね。あーん」


 胸を突き出した美人さんが口を開けて、向かいの席で待っている。

 ルナの差し出したスプーンを舐めるように口から離さない。


「おい、メイ、気がすんだだろ。食事の邪魔しないでくれ」

「うんもうカズったら冷たいこと言わないでよん。次の授業、休講だって教えてあげようと思ったのにい」

「それを先に言えよ」


 カズは新しいスプーンをルナに渡した。


 酢豚はあらかたなくなっていた。




 

 


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