第2話 観覧車

「今日はオトちゃんへのバレンタインのお返しなんだからな」


 近づいて来た観覧車に遼平は二人を押し込んだ。


「えっ」


 と言うルナの声に、ヨッシーの声が絡んだ。


「ルナちゃん」


「次は俺、ユイちゃんと乗りたい」


 順番がくるとサッサと乗り込んで行く。


「次はぼくたちだけどルナも一緒に乘る?」

「うん」


 ひとりで乗るのはいや。

 オトちゃん、ヨッシーにチョコレートあげたんだ

 窓ガラスを無言で見詰めていた。


「ルナ、ルナ!」

「えっ、何?」

「そっちからシャッター押してくれ」


 向かいにあきこと並んで座る一之介からスマホを渡された。


「あら、ここが頂上じゃない?」

「えっ、悪いルナ、もう1枚撮ってくれ」


 一之介はあきこの肩に手を回すと、あろうことにほっぺたにチュをした。

 あきこはキャッキャッとはしゃいでる。


 妹の前でよくやるよ。

 そういえば観覧車の頂上でチュをすると二人の恋は成就すると言う。

 ヨッシーもオトちゃんと今頃。

 ミミーランドに一緒に行こうねって言ってたのに。ヨッシーのバカ。


「さあ、次はジェットコースターに乗ろうか」

 

 遼平は上機嫌だった。


「ルナはいい。乗らない」

「何だ怖いのか」

「うん、その辺見て帰るからみんな楽しんできて」

「じゃあ、おれも」


 ヨッシーがルナのあとを追おうとした。


「主役が抜けたら困るよ。だいいちオトちゃんに失礼じゃないか」

「私は大丈夫です。充分楽しませてもらいましたから」

「おお、オトちゃんは大人だね」


 フフフッ。


「まあ、見てろよ。ルナはチュロス売り場に向かうぞ」


 笑いの渦がチュロス売り場にまで届いてきた。


 ルナがいなくてもみんな楽しそう。いないほうが楽しいのかもしれない。


 ベンチに座り、ひとりで食べても美味しいものは美味しい。ヨッシーだったらもう1本買いに走っているだろうな。

 これ、旨い。もう1本買ってくるわ。ルナちゃんもいる?

 なんてね。


 施設に設置された水道で手を洗う。

 ルナちゃん、袖をちゃんと捲らないと濡れちゃうよ。

 と言って、袖を捲くってくれるヨッシーはいない。

 ほら、だからこんなにビショビショになっちゃったじゃない。

 ヨッシー。


 アイスも食べたし、早く家に帰ってママに美味しいご飯作ってもらうんだ。




「ただいまあ」

「お帰りなさい。あら、遼平たちとご飯食べてくるんじゃなかったん?」

「もう寝る」


テーブルの上に特上にぎりの寿司桶があった。


「一平さん、いくら好きやんね。あーんして」

「旨い」

「ナオさんはウニだな。あーん」

「やだあ、美味しい」


 きゃきゃ、うははは。

 あっちでもこっちでも、いちゃこらして、どうぞ楽しんでくださいよ。







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