17 🏠ルナお仕置き

オカン🐷

第1話 軽率

「おっ、ルナ来たか。待ってたぞ。で、あれは?」

「おじいちゃん、ごめん、持って来られなかった」

「なんじゃい、楽しみにしとったのに」


 剣道場の師匠は本当にがっかりしている。

 すると、入院病棟の個室の扉が開けられた。


「ルナが師匠のお見舞いに行くと言っていたから、おおかたこんなことだろうと思っていたよ」

「パパ」

「先生、うちの娘を悪事に加担させないでください」

「悪事って、一平、酒は日常のことなんじゃよ」


 一平は大きなため息をついた。


「未成年者に酒を買って来させるのが問題なんです。それに今度吐血したら生命にも関わるそうじゃないですか」

「医者はオーバーなんじゃよ。一生に一度のお願いじゃ、一口でええ、一口でええから飲まさせてくれ。この通りだ。頼む」


 頭を垂れて、少し薄くなった後頭部を師匠は見せた。


 これではルナでなくとも一杯くらいならと思ってしまう。

 これからはルナをひとりでは来させないようにしなければ。


「おじいちゃん、ごめんね。これ、おじいちゃんの好きなひよこ豆。これ食べて元気だして。ルナ、おじいちゃんに長生きしてもらいたい」

「毅然と矍鑠とした先生はどこに行ったんです。僕の憧れの先生なのにがっかりさせないでください。ルナ、帰ろう」

「う、うん」



 ルナは一平の運転する助手席に身を沈めた。


「ママと買い物に行ったとき、もし、お酒が手に入っていたら師匠に持って行くつもりだったのか? まあ、成人認証されて不可能だけどな」

「うん、持って行くつもりだった」

「それが原因で師匠が死んだとしたら」

「おじいちゃん、元気そうだし思いもよらなかった」

「ルナ、元気だったら入院してないさ」

「うん、そうだね。軽率だった。ごめんなさい」


 ルナは助手席で身を縮めると、零れ落ちそうになる涙を懸命に堪えた。

 家に帰り着くまで父と娘は無言の時間を過ごした。


 

 ルナは家に辿り着くと、すぐに自室に閉じこもった。


「ナオさん、やっぱりそうだったよ」

「ありゃまあ、で、ルナは反省タイム?」

「うん、ルナの好きなもの作ってあげてよ」

「じゃあ、ナオさん特製の卵とじうどんでも作りますか」

「おお、それいい。僕も食べたい」

「よっしゃ、愛情いっぱいのおうどんでっせ」


 



 

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