五章 闖入者 3

 ルディたちは空を飛ぶ魔獣から離れようと走っているが、3羽の魔獣のうち1匹がルディたちを追うように頭上を飛んでいる。

 「うわ、なんかついてきちゃった」

 クルトが頭上を見上げながら声を上げた。その間の足は止めずに走り続ける。

 「あれ、なんなんだよ?」

 「グレイス・ピジョンだって。氷魔法を使うらしいよ。さっきもつららを落としてきて危ないやつなんだ」

 まだいまいち状況が把握できていないルディにクルトが説明する。ルディもその名の魔獣は図鑑で知っていたが、実物を見るのは初めてだった。

 「マジかよ。中級魔獣じゃん」

 記憶をたどり、魔獣の基本情報を思い出したルディが心底いやそうにいった。記憶が間違っていなければ、グレイス・ピジョンは小型ながら中級魔獣に分類されていたはずだ。まだ経験が浅いルディとクルトだけで相手をするのはかなりしんどい。

 「走りながら考えよう。止まると危ないよ」

 「そうはいってもな。逃げ続けるわけにもいかんし……」

 

 魔獣は逃げていくルディたちに向かってつららを落とした。ルディたちはそれを回避しながら走り続ける。このまま走り続けても、そのうち体力が尽きてやられてしまうだろう。戦うのなら早いうちがいい。ルディは立ち止まると魔獣の方を向いた。

 「ルイ!」

 クルトが驚いて声を上げる。

 「このままじゃじり貧だ。迎え撃つなら早い方がいい。お前も覚悟決めろ」

 「……っ。わかった」

 クルトもルディと同様に立ち止まると、魔獣に向かって剣を構えた。

 ルディは魔獣に向かって遠距離攻撃魔法を仕掛ける。多数の火球が魔獣に向かって放たれたが、小鳥は簡単そうにそれを回避した。ルディも負けずに攻撃魔法を放ち続けるが、魔獣は優雅に空を飛び回る。なかなかヒットしない。

 

 「だめだ。的が小さすぎる。オレ、攻撃魔法は苦手なんだよね」

 「今度は僕が行ってみるよ。強化お願い」

 今度はクルトが剣を構えた。ルディはそんなクルトに身体強化魔法をかけた。これなら魔獣の早さにはついていけるはずだ。

 えいっとクルトが地面を蹴り、上空の魔獣を狙う。しかし、魔獣はクルトの攻撃が届かないようにさらに高く飛び立った。着地したクルトは悔しそうに奥歯を噛んだ。

 ルディたちの攻撃がやんだのを見計らい、魔獣が再びつららを落とした。ルディとクルトは上空を見つめながらそれを回避していく。

 

 「どうする?クルト。このままじゃまずいぜ」

 逃げている間に先輩魔導士たちとはだいぶ離れてしまった。援軍は期待できない。この状況をなんとか2人で切り抜けるしかなかった。

 「うーん。このままじゃどうしようもないよ。なんとか下まで降りてきてくれれば、たたききれるんだけど……」

 「そうはいってもなぁ。奴ら、こっちの体力が切れるまでは降りてこないらしいし……」

 2人は必死に頭を回転させる。その時、ルディの脳裏にバニーゲイルを結界に閉じ込めた記憶がよみがえった。結界は目に見えないが、確かに物体として存在する。内外部の衝撃に強く、多少の衝撃では壊れないはずだ。魔獣を閉じ込めたときも、脱出を許さなかった。ルディに1つの案が浮かんだ。危険だが、可能性はありそうだ。


 「近づけさえすれば、奴を仕留められるんだな?」

 「たぶんね。確か、魔獣自体の強度は普通の鳥と変わらなかったはずだよ。この剣で十分仕留められるはずだ」

 「じゃあクルト、飛べ」

 「えっ。身体強化しても届かなかったよ?」

 ルディの真意が見えず、困惑したようにクルトがいった。ルディはそうじゃないと首をふると、こう続けた。

 「そういうことじゃなくてだな……。階段的なものがあると思って、空中を走ってくれ。足場は作るから」

 「足場って……。そんな魔法あったっけ?」

 「結界を張る。目には見えないが強度は強い。クルトの体重程度じゃ壊れないはずだ」

 「すごいよ、ルイ!」

 目を輝かせていうクルトを見ていたら、急にルディの自信がなくなってきた。

 「自分で提案しておいてなんだが、かなり危険だぞ。結界は目に見えないから、踏み外したら大ケガだ」

 「それしかないんでしょ?じゃあ僕やるよ。それに、ルイは僕のこと、落としたりしないでしょ?」

 ルディの顔を覗き込んで、自信ありげにクルトがいった。結界を張るのはルディなのに、クルトはなぜか自信満々だ。ひとり弱気になっていたのが馬鹿らしくなってくる。

 「そうだな。じゃあ、安心して駆け抜けろ!」

 「うん」

 ルディは自身の頬を叩いて気合を入れると、いつでも結界を張れるように構えた。クルトも走り出す体制に入る。

 「じゃあいくよ?」

 「こっちはいつでもOKだ」

 ルディの合図でクルトが走り出した。

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