五章 闖入者
五章 闖入者 1
バニーゲイル討伐からはや2ヵ月。ルディはだいぶ仕事に慣れてきていた。魔獣討伐任務も数をこなし、マント姿も様になってきている。初日に怒られて以来落ち込んでいたクルトも最近は笑顔で任務へと向かえるようになったようだ。この日もルディは勤務のため医務室へと向かっていた。
「おはようございます」
ルディが元気よくドアを開けると、先に到着していたクラウスが出迎えた。ルディが医務室を訪れるときにはいつも先にクラウスがいる。最近ルディは、クラウスは医務室に住んでいるのではないかと疑っている。
「おはよう、ルディ。今日も元気そうだね」
「はい。絶好調です!」
「それはよかった。私は年のせいか、最近寝つきが悪くてね。朝がつらいんだ」
ルディたちが話していると、ルドルフとオスカーがやってきた。
「2人ともおはよう。今日もよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
準備を済ませ、患者を迎える。この日は休日明けなこともあり、開室直後から多数の患者がやってきていた。この日は4人体制だったので、その分患者がはけるのも早かった。お昼を迎えるころには大半の患者を帰すことができた。
「これで最後かな?みんな、お疲れ様。午後もよろしく頼むよ」
最後の患者の帰宅を見届けたルドルフがみんなに声をかけた。オスカーが大きく伸びをしている。ルディも椅子から立ち上がると、グーと体を伸ばした。
「今日は珍しく時間通りに終われたな。ゆっくりごはんが食べられそうだ」
そういうとオスカーは部屋を出ていった。食堂へと向かったのだろう。ルディも挨拶をすると食堂へと向かった。
訓練終わりと時間が被ったこともあり、食堂は混雑していた。ルディは列に並び食事を受けとると、空席を探した。途中、ニコラスとヤンを見つけるも、席がうまっていたため手を振るにとどめる。ルディは入り口から離れたところに、何とか空席を見つけて陣取った。食事をとっていると、クルトの姿を見つけた。何やらきょろきょろしている。人を探しているようだ。ルディが手を振って合図すると、急ぎ足でクルトがやってきた。
「悪いな、クルト。席がいっぱいで一緒に食べられそうにない」
「大丈夫。ちょっと上官から伝言があるから、食事の後に時間をくれない?」
「おう。1時までは暇だよ。広場でいいか?」
「うん。じゃあ僕もはやく食事すませちゃうね」
クルトはそういうと空席を探しに行った。ルディも残りの食事を済ませ、広場へと向かった。
天気がいいこともあり、広場はそこそこ人でにぎわっていた。芝生に横たわり昼寝をしている人もいる。ルディは手ごろな高さの花壇に腰掛けてクルトを待った。
「待たせてごめんね」
5分ほど待つと、クルトがやってきた。ルディは手を上げてこたえる。
「それで、伝言ってなに?」
「えーと、明日魔獣討伐任務が入ったって。今日の仕事が終わり次第教室に集合してほしいって言ってたよ」
「魔獣討伐か……。今度はどんな魔獣だろうな」
「ぼくもまだ詳しいことはきいてないんだ。ちょっと楽しみだね」
「なんか嬉しそうだな」
ルディがそういうと、クルトは恥ずかしそうに頬をかいた。
「だいぶ慣れてきてはいるんだけど、やっぱり人を相手にするより魔獣相手のほうが気が楽でさ。人相手だとケガさせたら悪いから」
「クルト、やさしいもんな」
「そうかな?」
「そうだよ。普通、悪人が多少ケガしても気にしないもん」
きょとんとしているクルトをルディがつついた。
医務室へと戻ったルディは、次の日に魔獣討伐任務が入ったことをルドルフたちに伝えた。
「そうか。がんばってね。今日は早めに終わっていいよ」
「ありがとうございます」
「気を付けていってくるんだぞ。ケガしないようにな」
ルディの肩を軽くたたきながらオスカーがいった。
午後の業務が終わり、ルディは教室へと向かった。教室の扉を開くと、すでに2組の魔導士が来ていた。クルトの姿もある。ルディは入り口で軽く頭を下げると、クルトの隣に座った。
「さっきぶりだな、クルト。間に合ってよかったぜ」
「僕もさっき来たところだよ。先客がいておどろいたんだ。僕も早めに上がったんだけど……」
ルディとクルトが小声で話している間にも、もう2組の魔導士が入ってきた。今回も5組で討伐にあたるらしい。ほどなくして、上官が入室してきた。ルディたちは立ち上がって出迎える。
「明日の討伐対象はブラック・シアンの群れだ」
全員がそろっていることを確認し、上官が説明を始めた。
「ある村へと続く道路で目撃された。人への被害はまだ報告されていないが、知っての通り、奴らは黒魔法を使う。早めに討伐してほしいとの依頼があった」
黒魔法とは、基本3属性魔法とは別の、攻撃に特化した魔法である。使える人が限られるが、その分威力の大きい魔法が多い。黒魔法を使う魔獣が闊歩しているようだと、近隣の住民はさぞ不安だろう。
「黒魔法を使うとはいえ、小型魔獣だ。君たちの手にかかれば討伐は用意だろう。しかし、近辺では他にも魔獣の目撃例がある。場合によっては他の魔獣に乱入される可能性もある。気を抜かないように」
注意事項を述べると、上官は解散の号令をかけた。三々五々、魔導士たちが散っていく。ルディとクルトも他の魔導士に交じって教室を後にした。
「黒魔法かぁ。あこがれちゃうな」
「そうか?確かに使える人は少ないけど、攻撃なら他の属性魔法で十分だろ」
「いやいや。使える人が少ないって、かっこいいじゃん」
クルトがキラキラした眼差しで熱弁するので、ルディは苦笑した。
「オレからすると、前衛のクルトも十分かっこいいんだけどな。ほら、オレは後方支援が主だから」
「そうかな?」
「そうだよ。魔獣に突っ込んでいくなんて、勇気がないとできないだろ。後ろで見てるだけでハラハラする」
ルディがそういうと、クルトは嬉しそうに笑った。
部屋の入り口でクルトと別れたルディは、次の日の準備に取り掛かった。いつも通り、剣の様子を確認し、手持ちの魔石を数える。予定地の近くでは別の魔物も目撃されているようだ。道中魔物と交戦する可能性もあるだろうと考え、多めに魔石を用意することにした。
ルディは倉庫へと向かうと、申請用紙を書き、係に提出した。用意されるのを待っていると、ダニエルのやってくるのが見えた。
「やっほー、ダニエル。なんか久しぶりだな」
「ルディ、久しぶり。元気だったか?」
「元気、元気。ダニエルはなんかお疲れだな」
久々に会ったダニエルは少し疲れた顔をしている。ルディは心配になった。
「いや、さっき討伐から帰ったばかりでな。剣が欠けたから新しいのを取りに来たんだ」
「そっか。お疲れさん。ケガしてない?」
ダニエルの疲れている原因がわかり、ルディは安心したが、また別の心配が出てきてしまった。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ルディは魔石か?」
「おう。オレも明日討伐でね。足りない分を取りにきたんだ」
「そうか。気を付けていってこいよ」
「ありがとう。また一緒にごはんでも食べようぜ」
ルディは魔石を受けとると、ダニエルに別れをつげて自室へと帰った。
部屋に戻ったルディは、もう一度魔石の数を確認した。全部25個、これだけあれば大丈夫だろう。ルディはサイドテーブルに魔石が入った袋と着替えを置くと、早めに就寝することとした。
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