四章 お仕事 3

 初出勤からはや2日、今日もいつも通り走り込みを済ませ、職場へと向かう。ルディはだいぶ仕事に慣れてきて、患者に笑顔を向けることもできるようになってきていた。職場の人間関係も良好だ。この日も足取り軽く医務室へと向かった。

 「おはようございます」

 ルディが元気よく入室すると、おはようと2人の声が帰ってきた。医務室にはオスカーとクラウスが先に到着していた。ルドルフの姿はまだ見えない。

 「今日はルドルフが討伐に行っていて、3人しかいないんだ」

 ルドルフの姿が見えないことを疑問に思っていたルディに、説明するようにクラウスがいった。

 「今日はいつもよりハードかもしれないが、よろしくたのむよ」

 オスカーがルディの肩をたたきながら続けて言う。

 「はい。戦力になれるよう頑張ります」

 ルディはいつも以上に気合を入れた。


 ほどなくして、午前の診療が始まった。いつも通り、軽傷の患者が多い。しかしながら、4人でさばいていた人数を3人でさばかなければならないので、ルディの負担は大きかった。オスカーとクラウスは慣れているのか、平気な顔をしている。

 ――やっぱり、先輩方はすごいなぁ。

 ルディが感心している間にも患者はやってくる。ルディは笑顔を作りつつも、もくもくと治療を行っていった。


 「ルディ、オスカーお疲れ様」

 午前の診療が終わり、クラウスが2人に声をかけた。午前の診療が押してしまい、午後12時20分をまわっている。

 「ルディ、ちょっと遅くなったけど、昼食をとってくるといいよ」

 「クラウスさんとオスカーさんはいかないんですか?」

 てっきり2人も食堂へ向かうと思っていたルディは疑問に思った。

 「私たちはまだ少しやることがのこっているから後で行くよ。気にせず行っておいで」

 「いや、オレも手伝います」

 「大丈夫。私たちは慣れているから。君には午後も頑張ってもらわないとだし、ちゃんと休憩しておいで」

 「でも……」

 先輩だけに仕事をさせることが心苦しく、ルディが食い下がる。

 「じゃあ、午後戻ってくるときに、魔石をもらってきてくれないか?午前中でだいぶ使ってしまってね。戻りがおそくなっていいから、昼食後に補給してきてほしいんだ」

 ルディの心境を察してか、オスカーがルディにお使いを頼んだ。

 「はい。わかりました」

 「じゃあ。いってらっしゃい。ゆっくりするんだよ。魔石も、急がなくていいからね」

 食堂へと向かうルディを2人は笑顔で見送った。


 ピークはすぎていたのか、食堂に並んでいる人はいつもよりも少なかった。ルディも列に並び、食事を受け取った。食堂を見わたすと、クルトがニコラスと座っていた。ニコラスもルディに気が付いたのか、手をあげて座るように促す。2人はあらかた食事を済ませたようだった。

 「よお、ルディ。今日は遅いんだな」

 「あぁ。1人討伐でいなくてさ、3人態勢なんだ」

 「そりゃ大変だな。お疲れさん」

 そういうニコラスのそばにヤンの姿が見えない。

 「あれ、ヤンは?」

 「今さっき出ていったよ。魔石が足りないんだって」

 ニコラスの代わりにクルトがこたえた。フーンと、ルディはスプーンを咥えながら納得したような声を出した。ルディは手早く食事を済ませながら束の間の休息を味わった。


 「ごめん、オレ倉庫係にようがあるんだわ」

 「そうなの?じゃあまた夕食のときにね!」

 まだ話たりなそうなクルトとニコラスに別れをつげ、ルディは倉庫のカウンターを目指した。テーブルで書類を記入し、係に提出する。

 「数が多いようですが、何にお使いですか?」

 「医務室用です」

 「あぁ。わかりました。用意いたしますので少々お待ちください」

 係は納得したようにうなずくとカウンターの奥へと消えていった。しばらくすると、袋を持って係が帰ってきた。ルディは袋を受け取ると、魔石の数を確認した。魔石に過不足がなかったので、お礼をいうと医務室へと戻った。


 「ただいま戻りました」

 「おかえり。早かったね。もっとゆっくりしてきてもよかったのに」

 ルディが入室すると、すでにクラウスが来ていた。ルディよりもあとに出ていったはずなのに、一体いつご飯を食べたのだろうと疑問に思った。

 「あぁ。魔石を取ってきてくれたんだね。ありがとう、助かるよ」

 クラウスはルディの持っている袋に気が付いたようで、微笑みながらルディをねぎらった。

 「クラウスさん、ちゃんとご飯食べました?」

 ずっと医務室にいたのではないかと疑いをもったルディがクラウスに尋ねた。

 「うん、ちゃんと食べたよ。心配しないで」

 クラウスは大きくうなずくと、魔石をストック用の箱にしまった。いまだに疑い視線を向けているルディを見ると、クスクスと笑った。

 「本当に大丈夫だよ。ちゃんと休憩しているって」

 「それならいいんですが……」

 ルディがいまいち納得いかない顔をしていると、オスカーが戻ってきた。

 「おう、ルディ。早かったな。しっかり休めたか?」

 「はい、元気いっぱいです」

 「そりゃよかった。午後も頼むぞ」

 オスカーはルディの頭を軽くたたくと、準備に入った。続いてルディも支度をする。

 ほどなくして、午後の診療が始まった。


 午後の時間も午前と同様に重症患者は訪れなかった。午前よりは患者数が多いが、ルディもだいぶ仕事に慣れてきて、そつなくさばくことができた。

 診療が終わり、ルディたちが後片付けをしていると、1人の魔導士が医務室を訪れた。

 「すみません。ルディ・ブラウンさんはいますか?」

 「はい、オレです」

 「上官から伝言です。明後日、魔獣討伐任務が課せられることになりました。説明のため、明日の午後4時に教室へと集合するように、だそうです」

 「わかりました。ありがとうございます」

 ルディがお礼をいうと、魔導士は一礼して去っていった。

 「明後日は魔獣討伐か。週末をはさむから、今週は明日で最後だね。明日は早めに上がるといいよ」

 話を聞いていたクラウスがいった。

 

 この日の仕事を終えて、ルディは夕食を取りに食堂へと向かった。食事を受け取り、空席を探していると、クルトが手を振っているのが見えた。クルトの前の空席に陣取り、ルディも食事を始める。

 「クルト、聞いたか?明後日魔獣討伐だってさ」

 「うん。僕もさっき聞いたよ。説明は明日の4時だっけか?」

 「あぁ。どんな魔獣だろうな」

 2人で食事をとりながら思いを巡らせる。不思議なことに、前回ほどの緊張はなかった。クルトとなら何とかなるだろうという予感がある。

 その後は他愛もない会話をしながら楽しい時間を過ごした。


 

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