四章 お仕事 2

食堂は昼食を求める人でにぎわっていた。ルディも列へと並び、食事を受け取る。きょろきょろと周りを見渡して空席を探す。何とか空いている席を発見し、ルディは食事をとった。いつもならヤンやニコラスと一緒に食事をとるが、この日は少し出遅れたこともあり姿は見当たらなかった。同じくクルトの姿も見当たらない。ルディは少し寂しい気持ちで食事を平らげた。


 ルディが食事をとり終わって休んでいると、食堂の入り口の方にクルトの姿を見つけた。まだ食事がすんでいないようで、列に並んでいる。どうやら、ダニエルとシルビオも一緒らしい。ルディはクルトたちが気が付くように、大きく手を上げた。クルトもそれに気が付いたようで、ルディのいるテーブルへとやってくる。空席が埋まり、にぎやかになった。


 「みんな、お疲れさん。遅かったな」

 「いや。ちょっとヘマしてね」

 ダニエルがちょっと疲れたようにいった。同じくシルビオ疲れた様子だ。クルトに至ってはなんだかしゅんとしている。

 「何々、何があったの?」

 「市街警らに同行したら、無線飲食の場面に遭遇したんだ」

 「うん、うん」

 「それで、先輩が経験だって僕たちを向かわせたんだけど……」

 「それで?」

 「つい癖で剣を抜いちゃって……」

 「あぁ、それで怒られたんだな」

 ルディはそこまできいて、ようやくクルトたちが落ち込んでいる理由がわかった。

 「市民を殺す気かって、説教されたんだ」

 「それゃ災難だったな」

 へこんでいるクルトを励ますように、肩をたたきながらルディがいった。

 「そういうルディはどうだったんだ?」

 お茶を飲みながらシルビオが尋ねる。

 「みんないい人だったよ。ただ、患者の数が多くてな。オレいれて4人しかいないから」

 「そっちも大変そうだな」

 「そうなのよー。初日っからフル稼働よ」

 ルディは肩を解すように回した。となりではダニエルが机に突っ伏している。

 「そんなに落ち込むなよ。初日なんだからしかたないだろ」

 うなだれているダニエルの頭をルディがつつく。

 「そうはいってもな。やっぱり叱られるとへこむぜ……」

 「戦闘訓練は受けているが、逆に無傷でとらえるのが難しいんだ。魔獣相手とは勝手がちがってな」

 「大丈夫、大丈夫。そのうち慣れるって。ポジティブに考えようぜ」

 なかなか調子が戻らない3人を励ますようにルディがいった。


 午後の始業時間が迫ってきたので、ルディは3人に別れを告げ食堂を後にした。医務室へと戻ると、先にクラウスが到着していた。

 「はやいね、ルディ。ちゃんと休めたかい?」

 「はい。ばっちしです」

 ルディが力こぶを作るようなしぐさをすると、クラウスはくすりと笑った。

 「午後は実技訓練があるから、患者数が増えやすいんだ。頑張ろうね」

 クラウスがルディを鼓舞していると、ルドルフとオスカーが帰ってきた。

 「ルディ、疲れてないか?」

 「お昼にゆっくり休んだので大丈夫です」

 新人のルディを気にかけてオスカーが声をかけた。ルディはピースをしながらこたえる。

 「それゃ頼もしい。魔石は数を気にせず使ってくれ。体力を消耗しないように、自身の魔力は温存するようにな」

 「はい」

 ルディが元気よく返事をすると、オスカーは満足そうにうなずいた。そんな2人の様子をクラウスとルドルフがほほえましそうに見ていた。


 ほどなくして、午後の診療が始まった。時間が早いうちは市民の患者が多かった。この日はそれほど大きなケガをしている患者はおらず。初級魔法で事足りた。3時を過ぎると、訓練終わりの訓練生の患者が増えてきた。やはり、大きなケガではないが、いかんせん数が多い。

 「ルディ、大丈夫かい?クラウスと交代して、少し休んでくるといい」

 自身も患者の治療を行いながら、ルドルフがいった。少し前に休憩をとっていたクラウスが手を振っている。

 「はい。ありがとうございます」

 ルディはありがたく提案を受けると、クラウスと入れ替わりでバックへと下がった。

 ――思っていたより大変だな。

 ルディは大きく伸びをすると、椅子の背もたれに体重をかけた。そのまま大きく息を吐き出す。ルディは人と関わるのが好きなので、患者とコミュニケーションをとるのは苦ではなかった。しかし、ずっと魔法をつかっているのでかなり神経を使っている。体はあまり動かしていないはずなのに、訓練終わりのような感じだった。

 ――みんな、すごいなぁ。

 疲れているはずなのに、笑顔で患者の治療に当たっている3人を見て、ルディは尊敬の念をつのらせた。


 「おわったー」

 午後の診療が終了し、ルディは気が抜けて机に突っ伏した。そんなルディの頭をポンポンとオスカーが撫でている。子供扱いに不満はあったが、ルディに抗議するだけの体力は残っていなかった。

 「みなさん、今までは3人でこの人数をさばいていたんでしょ。すごいなぁ」

 「そうなんだ。今まで時間内に患者をみきれないこともあったんだ。今日は時間内に終わったね。ルディがきてくれて、かなり楽になったよ」

 ルドルフが嬉しそうにいった。同じ労働環境なのに、あまり疲れた雰囲気がない。さすがである。

 「一番恩恵を受けるのは私じゃないかな。いままでは重症患者がいると、任務後でもよびだされていたから」

 使い終わった魔石を片付けながらクラウスがいう。

 「これからは、ルディがいるからね。少なくとも任務後はゆっくりできそうだ」

 「お役に立てるよに努力します」

 あんまり気負わないでくれと、クラウスがルディの肩をたたいた。


 業務が終了し、食堂へと向かう。夕食をとると、シャワーを浴び、自室へと戻った。そのままうつぶせにベッドへとダイブする。ミシッとベッドがきしんだ音を立てた。

 ――疲れた。

 寝返りをうち、天井を見つめる。肉体的には疲れていないはずのに、なぜか全力疾走後のように体が重い。まぶたが重く、目をとじたらすぐに眠れそうだった。

 ――みんないい人だったな。よかった。

 ルドルフ、オスカー、クラウスの顔を思い浮かべる。みんなルディを心から歓迎してくれた。少々子供扱いするところはあるが、少なくとも10歳は離れているので仕方ないだろう。なかでもクラウスはかなり喜んでいるようだった。

 ――きっと今まで大変だったんだろうな。力になれるように頑張ろう。

 ルディは決意すると、そのままの体制で日課の読書を始めようとする。本を開いたところまで杯良かったが、読んでいる途中に眠ってしまったのか顔面に本が直撃した。ルディは本を読むのをあきらめると、早めに就寝した。

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