三章 初陣 4

 シルビオの言葉に、ルディたちは歓喜した。ダニエルとヘルマンが嬉しそうにハイタッチしている。マルクスも安心したような表情だ。ルディは作戦がうまくいった安心感から座り込んだ。

 「やったね、ルイ」

 「おう」

 嬉しそうによってきたクルトと拳を合わせる。前線で戦っていたクルトがきになり、ルディは様子を確認した。顔や腕に細かい傷はできているが、大きなケガはないようだ。

 「ほら、傷みてやるから、しゃがんで」

 「えっ、いいよ。かすり傷だし」

 「いやいや、菌が入ったらやばいだろうが」

 ルディに手間をかけまいと、治療を辞退しようとするクルトを説得し、治癒魔法をかける。クルトがお礼を言うのを手で制した。

 「シルビオ、ダニエル。ケガしてないか?」

 今度は同じく前線で戦っていた2人に声をかける。かすり傷だから街に戻ってからの治療でも大丈夫だというダニエルを無視して治療を始めた。

 「街に戻るまで、痛いの我慢することもねーだろ」

 「ありがとう。助かるよ」

 引く様子のないルディをみて、シルビオはおとなしく治療を受けた。


 喜びの波もピークを過ぎ、それぞれが落ち着きを見せ始めたころ教官たちに成果を報告するべく戻っていった。ルディたちがこちらに向かってくるのが見えたのか、教官たちもルディたちの方に向かって歩みよってくる。

 「どうだ、みんな。大きなケガはないようだな」

 教官はルディたちの姿を確認すると、満足そうにうなずいた。

 「はい。無事討伐に成功いたしました」

 シルビオが代表して報告する。

 「よくやった、諸君。おめでとう、これではれて魔導士の仲間入りだ」

 教官の隣では、仲間入りを果たしたルディたちを歓迎するように同行の魔導士が拍手している。

 ルディたちは教官たちとともに街に戻っていった。


 養成所に戻ってきた一行は、朝と同じく広場に整列していた。ルディたちの前には、同行の教官だけでなく所属する魔導士の多くが集まっていた。

 「おかえり、諸君。よく生きて戻ってきてくれた。諸君を同士として歓迎しよう」

 この機関の所長がいう。ルディは初めて会ってが、どことなく威厳がある人物だった。黒いマントがよくなじんでいる。

 「今後、諸君には機関所属の魔導士として任務にあたってもらう」

 所長はルディたちを見わたしながらいう。ここで一度言葉を切ると、表情を崩してこう続けた。

 「とはいえ、今は休息が必要だ。この後、2日間は休日になっている。ゆっくり体を休めるように。では解散」


 解散の号令がかかり、皆が散っていくなか一人の魔導士がルディとクルトに声をかけた。

 「やったね、2人とも。ケガもないみたいでよかったよ」

 「ありがとう。ラルフ先輩」

 「ありがとうございます。先輩」

 声の主はラルフだった。ルディたちを心配してくれていたようだ。顔に安堵の表情を浮かべている。

 「先輩はやめてくれ。これからは同僚なんだから」

 ラルフは笑いながら、ルディとクルトの肩をたたく。

 「わかったよ、ラルフ兄さん」

 呼び捨てにするのがためらわれ、ルディは小さいころのように兄とよんだ。

 「また兄とよんでくれるのかい?うれしいな」

 そういうとラルフは嬉しそうにルディとクルトの頭を撫でた。子ども扱いされているようで、なんだか恥ずかしい。

 「2人とも、本当に大きくなったね。これからは同僚として、よろしく頼むよ」

 「あぁ。よろしくな、兄さん」

 「期待にこたえられるようがんばるよ」

 2人の返答に満足したのか、ラルフはもう一度ルディたちの頭をなでると、手を振って去っていった。


 ラルフと別れた後、ルディたちも自室へと戻っていった。

 「明日から休みだよな?どうする?」

 「また孤児院に顔を出さない?ルナも心配してそうだし。午後からでどうかな?」

 「ナイスアイデア!じゃあ外で昼食を食べようぜ」

 翌日の予定を決めると、ルディはクルトと別れ、自室へと戻った。


 ルディはマントを丁寧にたたむと、横になった。そのままめを閉じると、本日あったことを思い出す。魔獣と対峙したこと、傷の深さに慄いたこと、みんなと協力して魔獣を討伐できたこと……。

 思い出していくなかで、ルディは己の未熟さを痛感した。今回の討伐では、自身のことだけで手一杯で、周りを見る余裕がなかった。今回はシルビオとマルクスが全体を見てリードしてくれたからよかったが、彼らがいなかったら討伐は成功していなかっただろう。ルディは、自分はもう大人だと思っていたが、まだ子供であることを認識させられた。果敢に魔獣に突っ込んだ行ったクルトの方がまだ大人かもしれない。今後はもっと精進していこうとルディは決心した。

 そのまましばらく目を閉じていたルディだったが、やがて目を開けるとベッドから起き上がった。まだ興奮しているのか、体は疲れているはずなのに一向に眠気が訪れない。ルディは時計を確認した。

 ――この時間なら、まだ図書室が開いているか。

 ルディは読み終わった本をも持つと、自室を後にした。


 ルディは閉館が迫っていた図書室に滑り込むと、新しい本を何冊か借りた。どうせ眠れないのなら魔法の勉強をしようと思ったのだ。早速読もうと自室へと戻る。帰り道、ふと外を見ると、広場でクルトが素振りをしている姿が見えた。ルディは予定を変更して、広場へと赴いた。

 「よお、クルト。精がでるな」

 「わぁ。びっくりした」

 後ろから急に声を掛けられて驚いたのか、クルトが剣を落とした。

 「大丈夫か?疲れてるんじゃねぇの?」

 「うん。だけどなんか眠れなくて。ルディこそどうしたの?」

 「オレもおんなじ」

 ルディはアピールするように、本を持った手を軽く上げる。

 クルトは素振りをやめると、ルディの隣に腰を下ろした。

 「今日は大変だったね」

 「あぁ。大仕事だったな」

 「シルビオ、かっこよかったなぁ」

 「マルクスもなかなかだったぜ」

 しみじみいうクルトにルディも同意する。

 「オレ、もっとやれるとおもっていたのに、全然だった。これじゃあ、子ども扱いされてもしょうがねぇや」

 「そんなことないよ。ルイの白魔法、すごかったじゃん」

 「いや、魔法の腕とかじゃなくて。なんか、大人の余裕がないなって思った」

 夜空を見上げながらルディがいうと、同意するようにクルトがうなずいた。

 「もっと、強くなりたいな」

 「頑張ろう。一緒に」

 励ますようにいうクルトをみて、ルディは1人じゃないことを実感した。クルトと一緒なら、もっと強くなれる気がする。そう考えるとなんとなく感じていた焦りのような気持ちが消えていった。

 「あぁ。じゃあ、おやすみ。お前も早く寝ろよ」

 「うん。おやすみなさい」

 挨拶を済ませると、ルディはクルトと別れた。


 自室に戻ったクルトはベッドに座ると、借りてきた本を読み始めた。半分くらい読み進めると、ようやく眠気がやってきた。ルディは本を閉じると、電気を消し就寝した。

 

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