閑話 新米魔導士の休日
次の日、ルディが目を覚ますとすでに日が高く昇っていた。思いのほか長く眠っていたようだ。ルディは慌てて体を起こすと、洗面台に向かった。顔を洗い、服を着替える。ルディが身支度を整え終わるころには、約束の時間が迫っていた。ルディは急いで部屋を出ると、待ち合わせ場所である広場へと向かった。
広場を見わたすと、クルトの姿はまだないようだった。きっとクルトも疲れていたんだろうと思い、気にせず花壇の端に腰掛ける。ほどなくして、慌てた様子でクルトがやってきた。かなり急いだのか髪にまだ寝ぐせがついている。
「ごめん、ルイ。待った?」
「いや、オレも今きたとこ。慌ててたみたいだな。まだ寝ぐせがついてるぞ」
「目覚ましかけるのわすれちゃって、さっき起きたところなんだ」
クルトは少し顔を赤らめると、寝ぐせを直そうと髪を触った。
「疲れてたんだな。オレも似たようなもんだ。起きた時、かなり焦った」
「昨日は大変だったもんね……」
ルディは立ち上がると、クルトとともに養成所を後にし、街へと繰り出した。
メインストリートを通り過ぎ、中央広場へたどり着いた。12時を告げる鐘の音が響きわたり、音に驚いた小鳥たちが一斉に飛び立った。お昼休みなのか、広場はそこそこ込み合っており、そこらに腰掛けて昼食をとる人が多くいる。
「とりあえず、ごはんだな。朝食、食べそびれたし」
「何にしようか?今日は天気がいいから、外で食べてもいいかも」
「それゃいいな。あそこのカフェのテラスとかどうだ?」
クルトの提案に乗っかり、ルディは広場近くにあるカフェを指さした。中は多少混雑しているが、テラス席ならすぐに座れそうだ。クルトも了承したので、2人はカフェへと入っていった。
店内で注文を済ませ、空いているテラス席へと座った。日がさんさんと輝き、そよ風が気持ちいい。陽気に影響され、ルディは穏やかな気持ちだった。昨日とは大違いだ。2人でまったりしていると。食事が運ばれてきた。
「ハンバーガー注文のお客様?」
「はい。僕です」
クルトが小さく手を上げると、ウェイターはクルトの前に皿をおいた。続いてルディの前にも皿を置く。
「それでは、ごゆっくり」
ウェイターはちらりとルディの方を見ると、礼して去っていった。
「うーん。やっぱ男がこういうの頼むとへんかな?」
周りの視線を感じ、ルディがつぶやく。ルディの前の皿には、ホイップクリームのたっぷりのったパンケーキがおかれていた。上からかけられたベリーソースが鮮やかだ。
「いいんじゃないの。ギャップがあって」
もぐもぐとハンバーガーをほおばりながらクルトがいう。
「そういうもんかね」
ルディはパンケーキを切り分けると食べ始める。周りの視線は少々気になるが、気にしないこととした。
2人は食事を終えると孤児院へと向かった。
ゲートをくぐると、広場で小さい子供たちが遊んでいた。近くには洗濯物が揺れている。作業が済んだのか、近くに大きな子供はいないようだ。
「あっ、ルディとクルトだ」
子供たちがルディたちを見つけて駆け寄ってくる。ルディとクルトは大きく手を振った。
「よぉ、みんな元気にしてたか?」
「うん。元気だよ。今日は何して遊んでくれるの?」
「今日はルナに話があるから、また今度ね」
「えー」
不満そうにする子供たちを後にして、ルディたちは孤児院の建物に入った。午後の早い時間だ。きっとまだ食堂にいるだろうと予想して、館内を進む。食堂に入ると、予想どおり片付けをしている少女たちがいた。
「こんにちは。お邪魔してるぜ」
「ごきげんよう。ルディ、クルト」
ルディが声をかけると、少女たちはルディたちの方を向き、手を止めずに挨拶した。
「忙しいところごめんね。ルナはいるかな」
「ルナなら講堂の掃除をしているはずよ」
「ありがとう。行ってみるよ」
少女たちに別れをつげ、引き続きルナを探す。少女に教えられた通り講堂へ行くと、1人掃除をしているルナがいた。
「こんにちは。ルナ。ごきげんいかが?」
「こんにちは。忙しいところごめんね」
「ごきげんよう。ルイ、クルト。来てくれてうれしいわ。今掃除が終わったところなの」
ルナは2人に座るように勧めると、掃除用具を片付けに行った。
「昨日は仕事だったよね。無事に帰ってきたみたいで安心したわ」
ルナは2人の前に座ると安堵したように息をはいた。かなり心配してくれたのだろう、顔が少し疲れているようだ。
「あぁ。オレたち、特にケガとかはなかったよ」
「うん。元気、元気」
ルナを安心させようとクルトが体を動かしながらいう。
「それより見てよ。これ、魔導士の証だぜ」
ルディが黒いマントを振ると、ルナは複雑そうな顔をした。
「どうした?似合ってないかな?」
「いいえ、よく似合っているわ。ルイ」
なにか気に障ったのかと心配そうなルディにルナがいう。
「ただ、正式に魔導士になったということは、また危ない仕事をするんでしょう?2人がちょっと心配なの」
そういうとルナはうつむいてしまった。
「まぁ、オレたちまだ下っ端だし、先輩も一緒だから大丈夫だよ」
慌ててルディがいうと、同意するようにクルトが激しくうなずいた。
「それに、普段の仕事は街の警備とかだし。めったに討伐にはいかないからさ」
ルナを安心させようとクルトが続ける。2人の必死な様子が面白かったのか、ルナが噴き出した。
「そうね。2人とも強いし、大丈夫よね」
ルナは顔を上げ、少しほほ笑むと立ち上がった。
「これから忙しくなるんでしょ。今後は頻繁には会えなのね」
「いや、ちゃんと休みはあるから、今まで通りちょくちょく顔を出すつまりだ」
「それはうれしいわ。子供たちもルイとクルトが来るのを楽しみにしてるの。また遊んであげてね」
「うん。近いうちにまたくるよ」
ルナも忙しいだろうと思い、ほどほどのところで2人は帰ることにした。ルナがゲートまで見送ってくれた。
「それじゃあ、ごきげんよう。今度はごはん、食べにきてね」
「おう。楽しみにしとく」
「また連絡するね」
大きく手を振るルナに、2人も手を振り返すと帰路についた。
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