三章 初陣 2

 次の日、ルディは日の出前に目を覚ました。顔を洗うと、前日に買っておいたパンで朝食を済ませた。いつもの訓練着に着替えると、腰のベルトに剣と巾着を付ける。最後にマントを羽織り、鏡でチェックした。不備がないことを確認し、部屋を後にする。外はまだ暗く、なんとなく肌寒い。それでも、日が昇るのも近いのか、空の一部が明らんできていた。

 

 ルディが広場に到着すると、先にクルトが来ていた。素振りをしていたようで、頬がほんのり赤く色付いている。

 「おはよう、クルト。早いな」

 「おはよう、ルイ。緊張して、早くに目が覚めちゃって。ルイはちゃんと眠れた?」

 照れたように笑いながらクルトがいった。

 「おう。ぐっすりだった」

 ルディは答えた。前日就寝するときは眠れるか不安だったが、意外なことにしっかり睡眠はとれていた。

 ――オレって案外図太いのかもな。

 そんなことを思っていると、マルクスがやってきた。ルディとクルトが挨拶する。

 「2人とも、おはよう。早いね。僕が一番かなと思ってたのに」

 「クルトが一番だよ。オレも今さっき来たばっかりだ」

 クルトを指さしながらルディがいう。

 「ダニエルももうすぐ来ると思うよ。さっきすれ違ったから」

 マルクスの言った通り、ほどなくしてダニエルとシルビオがやってきた。3人が挨拶すると、2人も挨拶を返した。

 「みんな、早いな。まだ集合20分前だぞ」

 自分たちよりも前に3人が到着していることに驚いたようにダニエルがいう。

 「いや、緊張して早くに目が覚めちゃって。ちょっと体を動かしてたんだ」

 「大丈夫か?」

 そういうクルトを心配したシルビオがいった。

 「昨日は早く寝たから大丈夫。睡眠はとれてると思うよ」

 5人がそんな会話をしていると、ヘルマンがやってきた。ちょっと焦っているようである。

 「もしかして、遅刻だったりする?」

 「いや、みんなが早すぎただけ。集合時間までまだ15分あるよ」

 「ちょっと早めに行こうって思ったのに、全員揃ってるから焦ったぜ」

 ルディが告げると、ヘルマンは安心したように息を吐いた。

 5分前には同行の魔導士と教官が到着した。みんなが挨拶すると、教官は手を上げてこたえた。

 「全員、準備はできているようだな。感心、感心」

 教官は満足そうにそういうと、出発だと告げた。

 

 街の出口に着く頃には日が上りはじめていた。朝日が眩しい。ルディとクルトはこの街に来てから外に出たことがなかった。街の周囲は結界で守られているめ、街の中にまで魔獣が入ってくることは滅多にないが、一歩街を出ると、そこは魔獣が闊歩する危険地帯である。商人など外を移動せざるおえない人たちが、少しでも安全に旅ができるように主要道路付近に出没する魔獣を駆除するのが魔導士の仕事だ。


 街の外に出ると、原っぱが広がっていた。腰くらいの高さに草が生い茂っている。ところどころに背の高い木が立っており、木陰を作っていた。原っぱを分割するように土の見えた道がある。 フレイムサーベルが目撃されたのは道から逸れてしばらく行ったところらしい。

 教官に続いて道を逸れ、原っぱに入る。この辺りは立ち入る人も少ないのか地面が柔らかく、少し歩きにくかった。ルディたちは無言で草むらを歩いた。みんなが緊張しているのがルディにも伝わってくる。こんな時普段ならルディかヘルマンが場を和ますのだが、この時は自分の気を落ち着けるので忙しく、そんな余裕はなかった。

 しばらくすると、教官が急に足を止めた。全員に低い姿勢をとるように指示する。ルディたちが中腰で教官の指さす方向をみると、遠くに小さく魔獣の姿を見つけた。

「まだ距離があるが、あれが今回の討伐対象だ」

 魔獣に気づかれないように小声で教官がいった。

「私たちはここで待機している。逃げられると厄介だ。気づかれないように、慎重に近づくんだ。」

「はい」

 ルディたちも教官に習い、小声でこたえた。

「何かあれば助けに行く。君たちの1番の仕事は生きて帰ることだ。決して無茶はしないように」

 教官の言葉に深く頷くと、ルディたちは腰を低くしたまま距離をつめた。


 遠くからだと小さく見えたが、近づくと魔獣はかなり大きいことがわかった。脚だけでクルトくらいの大きさがある。警戒しているのが周囲を見渡しているが、まだルディたちには気づいていないようで、逃げるそぶりはなかった。

 「結構大きいね」

 クルトが小声でルディに声をかける。ルディは無言で頷いた。サイズだけで言ったら、昔村を襲った魔獣よりも大きいかもしれない。ルディはおもわず体がこわばった。

 「緊張してる?」

 そんなルディに気づいたのか、シルビオがルディの肩に手をかけて声をかけた。

 「ちょっとね。こんな近くで魔獣見るのは初めてだからさ」

 「所詮、低級魔獣だ。俺たちの敵じゃないさ」

 ルディを安心させるようにシルビオがいった。隣では、ルディと同じく緊張で体を固くしたダニエルをヘルマンが茶化していた。

 「そうだよ。みんなでかかればきっと大丈夫」

 マルクスも微笑みながらそういった。マルクスとシルビオはこのメンバーのなかで年長者にあたる。やはり、頼りになるなぁとルディは尊敬の気持ちを抱いた。

 「みんな、準備はいいか?」

 シルビオがみんなを見わたしていう。ルディとクルトは顔を見合わせると、大きくうなずいた。同様にヘルマンたちもうなずく。

 「あいつはまだ俺たちに気づいていない。マルクスの合図で一斉に切りかかるぞ」

 シルビオの言葉に全員がうなづいた。

 シルビオを先頭に、じりじりと魔獣との距離を詰めていく。あと数歩のところまで近づいたとき、マルクスが合図を送った。

 クルト、ダニエル、シルビオが一斉に飛び出し、魔獣に切りかかった。

 

 

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