第2話

 博士はスマートフォンを使って調べる。もちろん本名だ。私の探偵事務所のホームページが見つかるはずだ。

 その通りだったのか、博士はこちらを見た。

「記者ではないとして、ぼくが取材を受けない理由を知りたいね」

 探偵ともなれば。それはそうだろう。私だって急にこうされたら嫌だ。即興で思考を組み立てる。格好よく言ったが、言い訳を考えているだけだ。

「あの、私の甥が、治験に行くと行ったきり帰ってきていないのですが」

 甥、姪と言う言葉はとても便利なものだ。苗字が違くとも誤魔化しやすい。

 

「うん、僕の研究内容を話そう」

 なんとか聞き出すことができた。これもわたしの努力の賜物だといえよう。そういえば、賜物という言葉には、魔物が含まれている。

「僕は、心理学の研究をしている。自己と他者の統合性について」

「では、具体的な研究方法は?」

「いや、それは言えない」

 名前からは、あまり良い印象は受けない。ケースバイケース、場合によっては警察に突き出さなければ行けないかもしれない。

「実は、姪が自閉症なんだ。彼女のために、僕は研究を完成させなければいけないんだ」

 自閉症。ニュースなどで見たことがある。もう一度、博士の立場になって考えてみる。自分がぶれる。ちくちくと心が毛羽立って、胸が詰まるようになる。

「その、すみませんでした。ここで見聞きしたことは一切外部に漏らしません」

 わたしはこれ以上にないほど反省した。

 

 あれから研究所に何度か通ううち、私は博士と親しくなっていった。一応、心理学をs専攻してはいるので、何度か手伝いもした。

 そして、紆余曲折。かくかくしかじか。いろいろなことがあったのだが、私は博士に特別な感情を抱くようになった。私はこれを初色と名づけることにした。まあ元々存在していた言葉だが。

 

 目を覚ますと、見慣れない、見たことのある部屋にいた。研究所の一室だ。枕を敷かずに寝たので、首が痛む。その部屋は完全な立方体で、汚れなど一つもない真っ白な部屋で、ずっと見ていると、際限なく拡張されるような心持ちになる。

 突如、部屋が崩れた。つまりドアが開いた。そんな所に扉があったのか。中から、いや外から博士が出てくる。

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