アベレージパラドックス
宇宙(非公式)
第1話
探偵業とは、意外にもつまらない。少し古びたミステリー小説のように、難事件に立ち向かうことなど、一切ないのだ。
と、思っていた。わたしは目の前の依頼人をまじまじと見つめる。今の時代、電話ではなく直接事務所にくること自体珍しいし、その内容もごく珍妙なものだった。
「俺の弟が、怪しい実験に巻き込まれているんです」
珍客は霧生と名乗った。聞くと、弟が一週間、家に帰っていないらしい。六日前に行方不明届を出したが、未だに見つからない。焦っていた矢先、弟のパソコンの履歴から、怪しい実験の、被験者募集をかけているサイトを見つけ今回に至ったのだと。
愛する親族がかける気持ちを想像してみる。胸の内側が捲られるような感情になった。
「まず、一度このサイトに書かれている住所に行ってみます」
私はディアストーカーの中に道具を詰める。ディアストーカーの中には、ロマンと七つ道具が入っている。
一応、毎日認めている日記帳も持った。
「俺も行って良いですか。女性を一人にするわけには」
「いえ、心苦しいのですが、お客様を危険に晒すわけにはいきません」
厳しい山道を抜けると、そこは怪しげな研究所であった。あまりに著しいパロディに文章も少しばかりおかしくなってしまったが、そこには怪しげな研究所があった。
怪しさには二種類ある。おどろおどろしさが環境に適応しているものと、そこだけ環境から切り離されたように異質なもの。この研究所は後者であった。
異様に白い外見に加え、駐車場には黒い車がぎっしりと停められていた。
探偵らしくと思って被った鹿追帽も、心なし凹んでいるように見えた。
外はもう夜である。見たところ寮のようなものもなく、外で待ち構えていることにした。しばらく待つ。
暇を持て余して、七つ道具をいじっていた。人それぞれではあるが、私が持ち歩いているのは、スマホ、変装用メガネ、GPS、カメラ、メモとペン、そして虫眼鏡だ。後半はもはやなりきりセットの域だが、そこは触れないでほしい。
少しすると、霧生さんが見せてくださった写真の男が出てきた。博士が車に乗り込もうとする。それに合わせて、助手席に乗り込んだ。
「ああ、すみません、ちょっといいですか?」
自分がやられたら、帰ろうと思った矢先に車に非、知人が乗り込んできたら。そう考えると心が痛む。
「はあ、なんですか」
思ったよりも落ち着いている。と、言うよりも。声に抑揚がない。
「その、あなたってここの所長ですか?」
「まあ、そうですが」
「えと、ぶっちゃけちゃってください。あなたの研究内容は何ですか?」
裏も表も含めて。彼女はわたしをじっと見つめる。あ、そうだった。
「あの、わたし、新聞社の人間じゃありません」
本名を述べる。小説のように。しかし、博士は疑っているようだった。
「なら、調べてもいいですよ」
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