ランウェイ

「あ!来ましたね。二人ともその格好すごくお似合いですよ」


衣装コンテストに出るべく体育館へ向かったところ鈴木会長に声をかけられた。

なんか見るからに嬉しそうでニヤニヤしている。

そんなにも執事服とメイド服が好きなのだろうか。


「ありがとうございます。どちらへ向かえばいいですか?」

「体育館の舞台脇に担当の生徒がいます。まずはそこに行ってみてください」

「分かりました。ありがとうございます」


会長に言われた通り体育館の端を通って舞台へ向かう。

衣装コンテストの後にバンドとかが入ってるから人は思った以上に集まっている。

というかめちゃくちゃ多い。

こんな人数に見られるとか緊張してきたんだけど……

そうだ、綾香の様子は……


「大丈夫……達也くんがついてるんだもん……私ならやれる……」


……俺よりも緊張していた。

若干涙目になって小声で自分を励ましている姿はなんとも応援したくなってくる。

というか自分より緊張してる人がいると冷静になるって本当だったんだな。

綾香の様子を見てたら励ましてあげたい!って一気に緊張がどこかに行った。


「大丈夫?」

「……あんまり大丈夫じゃないかも」


さて、どうしたものか……

飴みたいな舐める物も持ってないし深呼吸でもやってみるか。

効果の程は知らないけど有名なんだから少しくらいは効果あるだろ。


「綾香。深呼吸しよう」

「えっ?いいけど……」


何回か吸って大きく吐くを繰り返す。

これで落ち着いただろうと思って綾香を見たらさっきと全く変わってなかった。

万事休すか───!?


もはや万策尽きて諦めかけた達也の脳に少女漫画的考えが舞い降りた。

そうだ……!手を繋げば人の温かみを感じて落ち着くんじゃないか……?

もうこれしかない!

下心も込みで即断即決し綾香の手を握る。


「……!?」


(柔らかいし小さい……これが女の子の手か……!)


しかしここで達也の脳は冷静になる。

いきなり手を掴んでいるこの状況に過去の自分を呪いたくなる。

や、やらかした〜!!

慌てて手を話そうとしたが綾香のほうから手を握ってくる。


「ふふっ……ありがとう。少し落ち着いてきたかも」

「そ、そう?それはよかった」


二人は手を繋いだまま再び歩き始めた。


◇◆◇


ついに衣装コンテストが始まった。

コンテストの内容はランウェイを歩き審査員である家庭科教師が採点する。

つまりたくさんの生徒は観客でコンテストになんの影響も持たない。

ランウェイは学園祭準備期間に会長が手配したらしい。

どんだけ見たいんだよあの人……


「が、頑張ろうね!達也くん!」


だいぶ回復してきた綾香もやる気充分だ。

俺たちの出番は最後。

理由は服が借り物であり採点対象ではないからだとか。

いくら盛り上げるためとはいえそれなら俺たち出る必要なくないか?

ここまで来たらもう逃げられないけど。


「ああ。やるからには場を盛り上げよう」


そしていよいよ俺たちの番がやってきた。

二人で一度頷きあってから並んで歩きだす。

流石に手は繋いでいないが言葉にできない安心感があった。


「キャー!!」

「榎本さんがメイド……!」

「二人とも素敵ー!」


色んなところから声をかけてもらってることはわかるが緊張で全然頭に入ってこない。

先端まで歩ききったとき会長に言われたファンサ?をする。

めちゃくちゃ恥ずかしいけどなるようになれだ!


「「いかがですか?ご主人様?」」


綾香とタイミングを合わせて黒歴史間違いなしのアピールをする。

綾香の顔も真っ赤になっている。

それから俺たちは逃げ出したい気持ちを頑張って抑え込み最後まで歩ききった。


もう二度とこんなことはしないと心に誓った。

因みに非公式の生徒のみで行われた投票では達也&綾香ペアがぶっちぎりの優勝だったんだとか。


達也は後日この日のことを「人生最高の黒歴史だったが綾香の可愛い姿が見れたから一概に悪いと言い切れない」と言っていた。

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