学園祭デートのお誘い

いよいよ学園祭を明日へと控えたとある金曜日。

学園祭の実行委員会は当日の動きを確認すべく最後の打ち合わせが行われていた。

みなその顔つきは初めて集まったときよりも疲れていたが頼もしい表情だった。


「トラブルは基本的に一人で対処しようとせず積極的に大人や回りを頼って下さい。体調不良者は保健室に連れて行くかマップに記載されている休憩用のテントに案内してください。あとは───」


鈴木会長によって素早く分かりやすく様々な事態に備えた対処法が説明される。

だが俺の意識はほとんど隣に座っている綾香に集中している。

なぜなら未だに綾香を誘えていないからだ。

今日を逃すともう誘うタイミングは無い。

この打ち合わせが終わった帰り道に誘うしか俺に道はないのだ。


「───それでは説明は以上です。明日はもう本番なので今日は早めに解散します。明日までに注意事項を頭に入れておいてください」


会長の言葉で今日の打ち合わせは締めくくられる。

各々帰る支度を始めている。

綾香も当たり前だが帰る準備をしている。

誘うなら今……!


「あ、あのさ……!綾香にお願いがあるんだ」

「ん?どうしたの?」


学園祭一緒に回ってくださいって言うだけだろ……!


「俺と一緒に……」

「一緒に……?」

「俺と一緒に今日帰ってくれない?」


だぁぁぁぁぁ!!!!!

なんでいらんとこでヘタれるんだ俺!

そんな弱気だと告白もまたヘタるんじゃねぇのか!?


「いいよ。達也くんと一緒に帰るなんて初めてかもしれないね」

「あ、あはは……そうだね」


綾香は一緒に帰ることを了承してくれた。

誘う時間制限が少し伸びたんだから今度こそ誘わなくては……!


◇◆◇


夕暮れ時の帰り道を綾香と並んで歩く。


「ついこの前まで夏休みだと思ってたのにもう学園祭が始まるんだね」

「そうだね。この準備期間も慣れないことがたくさんあって大変だったけどそれ以上に楽しかったよ」


本当にあっという間だった。

綾香と前よりも仲良くなれた気がするしクラスメイトとたくさん協力しあえた。

普段の俺だったらこの時点で学園祭は成功してると自信を持って言い切れる。

でもまだダメだ。

当日も実行委員やクラスの出し物の仕事があるし何より俺にとって一番大切なやるべきことを残している。


「わーきれいだね!」


突然綾香が声を上げたのでそちらを見ると綾香が夕日に美しく照らされていた。

おそらく綾香は夕日のことを言ってるんだと思うが目を綾香から離すことができない。

それほどまでに綾香は幻想的で美しかった。


「綾香、明日の学園祭……俺と一緒に回らないか?」


あれほどまでに言えなかった言葉だったはずなのにあっけないほど今回はするっと口に出すことができた。

綾香の顔が驚きの表情に変わる。


「私と……学園祭を?」


俺は黙ったまま頷く。

大丈夫、きっと断られることはないはずだ。

綾香は驚きを引っ込めていたずらっぽい笑みを見せる。


「ふふっ……それって『デート』かな?」

「ああ。デートだ」


間髪入れず即答する。

若干恥ずかしいがここで変に誤魔化すほうが不自然だ。

それに告白を考えているのだからお互いデートだという共通認識を持っているほうが都合が良いに決まってる。


「いいよ。明日は学園祭デートだね」

「ありがとう。楽しんでもらえるように頑張るよ」

「うん。楽しみにしてる」


にっこりと笑って了承してくれた。

明日の学園祭デート、絶対に成功させる……!

それで思いを伝えるんだ!


いよいよ運命の学園祭が始まる……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る