実行委員
あっという間に夏休みが終わってしまった。
今日からもう学校が始まるわけで既に俺の視界には教室がある。
(本当にこの夏休みはいろんなことがあったなぁ……)
今回の夏休みを思い出そうとして一番最初に浮かんできた顔は優ではなかった。
浮かんできたのは俺の初恋の美しい少女。
優に学園祭で告白しろと言われた相手だ。
「おはよう、達也」
「ああ、優か。おはよう」
優に挨拶してから自分の席に向かうのはいつもの流れである。
「ちゃんと学園祭に向けて準備してるか?」
「準備って当日どう告白するかってこと?まだちょっと気が早くない?」
俺たちはまだ出し物すら決まっていない。
デートコースを決めるは不可能だ。
強いて言うなら学園祭を一緒に回ってほしいと綾香を誘うくらいなら可能かもしれないがそれにしたって気が早い。
「はぁ……今できる最高の方法があるだろ?」
「え?何だ?」
少し考えてみても思いつかない。
優には何か考えがあるのだろうか。
「今日の六限目は何をするか知ってるか?」
「ホームルームだな」
「そう。そこで何をするかって話だ」
ホームルームは確か……
……!そういうことか!
「気づいたようだな?」
「ああ、今日の六限目は学園祭の実行委員決めだ。定員は各クラス男女一人ずつだからそれを俺と綾香で務めろってことだろ?」
「いつの間に名前呼びに変わったのかは置いておくけどそういうことだ」
学園祭の実行委員に選ばれれば確かに一緒にいられる時間は増える。
共通の話題だってできるわけだし思い出にだってなる。
考えれば考えるほど良案に見えてくるが……
「そう上手くいくもんなのかな」
綾香は学校の中で有名人ではあるが自分からクラスをまとめるような中心人物というわけでもない。
そもそもやりたくないと思ってるかもしれないし立候補したところで両方とも選ばれる保証なんてない。
「それを言ったらおしまいだけどやる価値はあるだろ?」
「ああ、そうだな。とりあえず綾香を誘ってみるよ」
「そうしたほうがいい。タイミングが良いことに榎本さんも来たみたいだしな」
見ると確かに綾香が既に来ていた。
いつも優と作戦を練っているタイミングで来るのはなんでなんだろうな。
ともあれ話を通すなら早いほうがいい。
今回は前回より間違いなく進展しているしなんの気負いもなく話しかけることができる。
「おはよう、綾香」
「あ、おはよう達也くん」
一瞬教室がざわめいた気がするが今はどうでもいい。
綾香に話を通すのが先だ。
「今、少し時間はあるか?」
「別にいいけど……」
綾香の態度の変化に嬉しくなってしまう。
最初のとげとげしかった頃が懐かしいな。
「単刀直入に言わせてほしい。学園祭の実行委員に興味はないかな?」
「学園祭の実行委員?」
「うん。綾香さえ良ければ一緒に実行委員をやれたらいいなって思うんだけどどうかな?もちろん嫌だったら断ってくれていいんだけど」
「う、ううん!全然嫌じゃないよ。選ばれるかはわからないけど……達也くんとならやってみたいかも……」
断られることも覚悟してたけど一緒に立候補してくれそうでよかった……!
後はクラスのみんなから選ばれる方法を考えないとな。
「随分二人とも仲良くなったね〜」
「あ、長谷川さん。おはよう」
「おはよう小泉くん。綾をここまで手懐けるなんてすごいじゃん」
「あ、あはは……」
なんとも回答に困る発言だ。
一体俺にどう答えろと?
「も、もう仁美……何言ってるの」
「えーいいじゃん別にー」
すると長谷川は何かに気づいたような仕草を見せいたずらっ子の目をして俺に耳打ちしてきた。
(デート中の綾はどうだった?)
(どうって……控えめに言って最高だったけど?)
この様子だと俺が綾香のことを好きなのはバレてるっぽいので素直に答える。
(それは何より。写真とかあったら送ってくれない?)
(撮ってない。それに撮ってあったとしても渡さない)
(えーおもしろくないなぁ)
どうやらデート中の綾香の写真が欲しかったらしい。
今思い返すと写真って撮ってないし学園祭の時一緒に回れるってなったら綾香にお願いしてみようかな。
「二人でなに話してるの?」
「ちょっとした世間話だよ〜」
「まぁそうだな」
とりあえず長谷川のごまかしに乗っかっておく。
綾香もあまり追及するつもりはなかったようであっさり納得した。
「それじゃあ二人とも六限目は頑張ってね。私はクラス委員だから特定の誰かの肩を持つことはできないけど心の中で応援しておくから」
「ありがとう、仁美」
確か立候補者が複数いたときは意気込みなどを語るスピーチをしてから投票で実行委員を決めたはずだ。
男子は運動部をやってる奴も多いし仕事や打ち合わせも結構あるみたいだから意外と競争率は高くないかもな。
一応スピーチの内容はなんとなく考えておくつもりだけど……
……その日の授業の内容はあまり入ってこなかった。
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