達也のファッションショー

「うーんどうしようかなぁ……」


俺が綾香チョイスの服を着ることが決まって十分程。

綾香はめちゃくちゃ悩んでいた。

綾香曰くどれも似合いそうで迷ってしまうらしい。

……どこかで聞いたような言葉だな。

それでも適当に選ばれるよりは自分のために真剣に選んでくれる方が嬉しいに決まってる。

それが好きな人ならなおさらだ。


「うーん……これなんかどうかな?」


決まったみたいで服を渡される。

俺自身ダサくなければいいくらいにしかファッションに頓着が無いのでよく長谷川と服を買いに行っているという綾香が選んだ服の方が似合うかもしれない。

綾香の好みも知れて一石二鳥だ。

早速服を受け取って試着室に移動する。

そしていざ着替え始めたのだが……


(あれ?思ったよりなんか恥ずかしくない?)


自分でさっき綾香を待っているときに衣擦れの音などは聞こえないって分かってるのに何故か少し気になってしまう。

一度気になってしまうと色々気にするようになってきて布一枚しか無いのが心細く思えてきた。

それでも綾香をあんまり待たせるわけにもいかないので素早く着替える。


「き、着替え終わったよ〜……」

「本当?見せて見せて」


若干不安だが綾香が選んだ服だし鏡で確認した感じも悪くない。

意を決してカーテンを引き試着室を出る。


「ど、どうかな……?」

「……」


感想を聞いたが綾香はポカンと口を開けて固まってしまった。

そ、そんなにも似合ってないのかな……


「……似合ってなかったよね。せっかく綾香が選んでくれた服なのに着こなせなくてごめん」

「はっ……!ご、ごめん!似合ってないなんてことないよ!その……かっこよくて言葉が出なかったの……」


俺が少し落ち込んでいると綾香は慌てて訂正してくる。

正直フォローされてるのか本当に似合ってるか分からない。

だけど男子高校生は単純なもので褒められると簡単に気分が上がってしまう。


「他にもこれとか着てみてよ!」

「えっ……!?わ、分かった……」


綾香は次から次へと服を持ってくる。

あまりの量に驚くが自分も綾香にいろんな服を着てもらってたくさん堪能させてもらったので素直に応じる。

モデルさんってこんな感じなのかな〜とどうでも良いことを考えながら綾香にお披露目をする。

その度に綾香は細かく感想を教えてくれて何やら考え込んでいた。

そんなことを繰り返して一時間ほど。


「ありがとう達也くん。どれもかっこよくて迷っちゃったけどどれがいいか決めたよ」


そう言って綾香は確かに着た記憶はあるがいつ着たか全く覚えていない服を持ってくる。

どうやらそれが一番綾香のお気に召したようだ。


「選んでくれてありがとうじゃあ買ってくるね」

「ダメ。私が買うって言ってるでしょ?」


くそ、騙せなかったか……


「だって買ってもらうのはどうしても申し訳ないんだよ」

「達也くんだって私に買ってくれたじゃん。絶対これは譲れないから」


そこからディベート大会が始まったんだけど結局綾香に買ってもらうことになってしまった。

流石に学年トップ3の頭脳は伊達ではなく気づいたら綾香に買ってもらう方向で話がまとまっていた。


「おまたせ、達也くん。買ってきたよ」

「おかえり。本当に買ってもらっちゃってごめんね」

「先に買ってもらったのは私だからいいの。ほら、交換しよ?」

「あ、うん」


俺が綾香のために買った服と綾香が俺のために買ってくれた服を交換する。

なんかこういうのっていいな……

紙袋を大切に手に握り店を出る。

その後は靴屋や雑貨屋などを二人で見て回った。

楽しい時間はすぐに過ぎるもので気づくと夕方になっており解散の時間が近づいてきた。

今は綾香はお手洗いに行っており俺はこの後のことを再確認する。

そう……告白である。

告白までの段取りは散々考えてきたしイメトレもバッチリだ。

しかし神様というのは残酷だった。


「なんか数回デートしただけなのに告白してきてさーなんで簡単に勘違いしちゃうかなぁ〜」

「あはは!なにそれちょーウケる!」


なん……だと?

全く知らない人たちがそんなことを言ってるのを聞いてしまう。

それはこれから告白しようとする達也の勇気を打ち砕くには充分な言葉だった。


「ただいま、待たせちゃってごめん」

「あ、ああいや。全然待ってないよ」


俺はどうすればいいんだ……

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