綾香のファッションショー

「姉さん……」


後ろを見るとやはり姉さんが立っていた。

確かに出かけると今朝言っていたけどこうも偶然出会うことなんてあるのか?


「あら!すっごく可愛い子じゃない!達也の彼女?」

「ちげーよ。この子はクラスメイトだ」


急に母さんみたいなことを言ってくる。

正直言って面倒くさいしすぐにでも離れたい。


「あ、あのはじめまして。達也くんのクラスメイトの榎本綾香です」

「本当にいい子じゃない。そんな子がなぜ達也と……?まさか弱み握ってるとか?」

「んなわけないだろ。俺の評価どうなってんだ」


綾香がいるのも忘れてしばらくワーワーギャギャー言い合う。

デートを中断させられたから多少不機嫌になり姉にも突っかかっていける。


「もう……今日は頑固なのね。ねえ榎本さん。達也のことどう思ってるの?」

「おい!」


気にならないどころかめちゃくちゃ聞きたいがそれは姉が聞くことではない。

そんなことを聞いたら綾香にも迷惑になってしまうだろうが!


「そうですね。達也くんは優しいし真面目な人で好ましい人柄の方だと思いますよ」

「へぇ……」

「もういいだろ?ほら行こうぜ綾香」

「あっ……!」


綾香の手を取ってこの場を離れる。

そんな二人の後ろ姿を小泉歩美は微笑みながら見ていた。


「達也もいい子を見つけたじゃん。達也のことをよろしくね。榎本さん」


◇◆◇


小泉歩美と別れた二人はたくさんの店が集まる駅前に来ていた。

夏休み中だし人も中々多い。


「ふふっ、達也くんお姉さんと仲良いんだね」

「仲良いのかなぁ……?いつも姉さんにパシられたりするんだけど」

「それでも、だよ。さっきの会話にしても信頼関係が見てわかったし」


そういうものなのだろうか。

信頼というより俺が逆らえないだけなのだが。


「さて、到着したけど何か買いたいものとかある?」

「うーん、それじゃあ服見に行こうよ」

「服?」

「うん。あのときよりもたくさん達也くんのリクエストを着てあげるよ?」

「行きましょう」


あのときというのは水色のワンピースを着てもらった日のことだろう。

今なら優があのとき即答で了承した理由が分かる。

見たいものは仕方ないじゃないか精神だ。

早速俺達は良さそうな店を発見して入店する。


「それじゃあ選んで欲しいな。何でも着ちゃうから」

「え?買い物はいいの?」

「先に達也くんの意見が聞きたくて」

「分かった。探してくるよ」


早速店内を回り綾香に似合いそうな服を探す。

正直綾香ならどれも可愛く着こなしてしまいそうで迷ってしまう。

俺が本気で迷っていると後ろからいたずらげに微笑んだ綾香が耳元でささやいてくる。


「何でもって言ったけどえっちなのは無しだからね……?」


何かリクエストかな?って思っていたらとんでも発言だった。

仮にもクラスメイトに公衆の面前でそんな服着させれるわけ無いだろ……

二人きりで見せてくれるなら見たいけど。

とりあえず一刻も早く綾香の色んな服を着た姿を見たかったので数着候補を伝える。


「なるほどね。達也くんはこういうのが好みなんだ」

「好みというより色んな綾香を見たいんだよ。何でも似合うと思うから」

「そ、そう……?」

「もちろん」


綾香は少し頬を染めながら俺が選んだ服を持って試着室に消えていく。

やましい気持ちは無いが布一枚奥で綾香が着替えていると思うと少し緊張する。

衣擦れの音なんかは全く聞こえないからそれだけはまだ心に優しかったけど。


「着替え終わったよ。どうかな……?」


試着室から出てきた綾香はボーイッシュな格好をしていた。

初めて見るキャップがすごく似合っている。


「いいね!クールでカッコいいのに綺麗だよ」

「あ、ありがとう。それじゃあ次のを着てくるね」


再び試着室の奥に消えていく。

思えば綾香とも随分仲良くなったな……

最初は俺がビビるくらい冷たかったのに今では俺のためだけにファッションショーまでしてくれるんだもんな。

何か感慨のようなものを感じてしまう。


「やっぱ俺、綾香のこと好きだ……」


それからも綾香は色んな服を着た姿を見せてくれた。

本当にどれも可愛かったけど最初のボーイッシュな格好を俺がどうしても気に入ったので綾香に買った。

綾香は申し訳ないと断ったけど俺に見せなくても良いから買わせて欲しいと押し切った。

ふふふ……これで人類の損失を回避した。


「それじゃあ達也くんにも服を買わせてよ」

「え?」

「達也くんが色んな服を着てるの見てみたい。それで一番カッコいいと思ったやつを買わせてくれない?」


つまり綾香が服を選んで俺が着ると?

俺が色んな服を着てるのを見て綾香は楽しいのか?


「他のところは回らなくていいの?」

「大丈夫だよ。それとも達也くんはあまり着たくない感じ?」


自分が綾香に散々着せておいて自分は着たくないなんて言えない。

別に嫌なわけではないから無理して断る必要は無いんだけどね?


「いやーでも買ってもらうのは申し訳ないというか……」

「達也くんがそれ言う?」

「………」


何も言い返せず達也のファッションショーが決定した。

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