榎本爆弾のダイレクトアタック
夏休みも終わりかけてきた今日このごろ。
俺は史上最高の緊張の中、駅前に立っていた。
そう、例の榎本とのデートである。
服装は優にアドバイスを貰いながら3時間は悩んだから少なくともダサくはないはず。
それに今までやったことなかったけど優に手伝ってもらって髪だってセットしてきた。
……今度あいつに何か奢ってやらなきゃな。
榎本はどんな格好で来るのかなぁ……
「ねぇねぇお兄さん一人〜?」
「良かったらあたしらと遊ばない?お姉さんたち大学生だからお金もあるよ?」
「え……?」
呼びかけられたので一瞬榎本かとも思ったけど目の前にいたのは全く知らない派手な服装の二人の女性だった。
まさかこんな日に逆ナンとは……
いつもは徹底的に無視して逃げるのだが榎本との待ち合わせ場所がここである以上逃げることはできない。
待ち合わせ場所に一時間以上前から来てて30分以上突っ立ってたのが凶となったのか……
「すみません。待ち合わせをしているのであなた方と一緒に行くことはできません」
「えーでもお相手さん全然来ないじゃん」
「ちょっとだけでいいからさー」
うーん弱ったなぁ……
よりにもよってしつこいタイプだったとは……
どうしようかと悩んでいると俺が待っていた人の声が聞こえた。
「ごめん達也くん!待たせちゃったね!」
「え、榎本!?」
いいタイミングで来てくれたと思ったらなんと下の名前呼びで腕に抱きついてきた。
夏で薄着なのもあって決して小さくない榎本の
好きな人からの爆弾攻撃により達也の精神に強力なダイレクトアタックがクリーンヒットする。
あ、俺今日が人生最後の日なのかな?
突然のことに俺が呆然としていると榎本は腕に抱きついた状態のままキッと自称女子大生たちを睨む。
「すみません、彼は私の彼氏なのでお引き取りしてもらってもいいですか?」
ぐはっ!?
ちょ、ちょっと榎本さん!?
それは僕の理性にもかなりのダメージが……!
「あーあ、彼女持ちだったか〜」
「いい男だったのに残念〜」
榎本の言葉と睨みが効いたのか二人は去っていった。
いやー助かった……けど俺の理性はあんまり助かってないよ!
「はぁ……どこかに行ってくれたみたいだね……」
「お、おはよう榎本さん。それで……その……」
「へ?あ!ご、ごめん!小泉さんが困ってるのが見えてつい……」
榎本は今まで俺の腕に抱きついていたのを忘れていたみたいで慌てて離す。
自分から言ったくせにぬくもりと柔らかさが離れていってしまって名残惜しくなる。
榎本も恥ずかしがってるみたいだしここは一つフォローの言葉を……!
「いや、嬉しかったよ。またやって欲しいくらい」
「そ、そう……?」
何を言ってるんだ俺は!
もはやこの発言はセクハラに該当するのではないか……?
引かれてはいないみたいだけどテンパりすぎてつい本音が漏れてしまった……!
一度心を落ち着けて榎本と向き合う。
するとあることに気づいた。
「あれ?榎本さんのその格好って……」
「うん、そうだよ。どう……かな?」
榎本は四月にショッピングモールで俺が頼んで着てもらった水色のワンピースを着ていたのだ。
俺の好み&榎本に似合いそうだと思ってあのとき選んだのでまさに俺にとってドストライクでありテンションが自然と上がってしまう。
「やっぱりめちゃくちゃ似合ってるね!すごく……その、かわいいよ」
「あ、ありがとう……!小泉さんもその髪型と服装すごく似合ってるよ」
「ありがとう。褒めてくれて嬉しいよ」
よくやった優!今度焼き肉奢るから一緒に行こうぜ!
そう言われて簡単に喜ぶ単純な俺だったが人間とは欲張りなもので少し物足りなくなってしまう。
もっと求めてしまう理由はとっくに分かっていた。
「あのさ……榎本さんさえ良かったら名前で呼んでくれないかな……?今日だけでもいいから……」
「名前で?」
「そう。さっき呼ばれてすごく嬉しかったから……」
「分かった、いいよ。……達也くん」
逆ナン相手のときは勢いで言ったのか今回は少し恥ずかしげだったけどはっきりと名前で呼んでくれた。
すごく可愛くて嬉しくて幸せだった。
「じゃあ私のことも名前で呼んでよ」
「え、榎本さんのことを?」
「もう、名前で呼んでよ。いつも服部さんと呼び合ってるみたいにさん付けもしなくていいから」
お、俺が榎本のことを名前で……?
呼ばれるのは嬉しいが呼ぶのは何故か気恥ずかしい。
だがこれは榎本から与えられた他の男子は持っていない俺だけの特権……のはず!
ここで呼ばない手はない!
「あ、綾香」
「うん、合格」
こうして逆ナンというハプニングがあったもののダイレクトアタックと名前呼びという思わぬ副産物を得た達也は榎本にデートを楽しんでもらうべく気合を入れるのであった。
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