食べさせ合い
「あ!金魚すくいだ〜!服部くんやりに行こう〜!」
「な、おいちょっと!?分かったから引っ張らないで!」
俺達が夏祭りの屋台を回り始めて30分ほど。
優は常に長谷川に振り回されていた。
「長谷川さん元気だな……」
「仁美はいつも季節の行事はいつもはしゃいでるんだよ。特に夏祭りがお気に入りみたいで私も毎年あんな感じだったなぁ……」
どうやら榎本は毎年長谷川のお祭りテンションの餌食になっていたようだ。
今年は何故か優が標的のようだが。
「ここで待ってるのも時間が勿体無い。どこか行きたいところでもある?」
「いいの……?」
嫌な理由なんて一つもない。
むしろこっちから提案しているくらいなんだから。
「私、綿あめ食べたいかも」
「了解。それじゃあ早速探しに行こうか」
優達は金魚すくいに夢中になってるみたいで声をかけて水を差したら申し訳ないからメールに一言入れておく。
綿あめの屋台は今のところ見ていないが歩いていれば見つかるだろう。
そしてその予想は当たってあっさり屋台を発見した。
「見つけたね。小泉さんは買うの?」
「いや、俺は遠慮しておくよ。甘い物は少量ならいいけどあまり得意じゃないから」
「そっか……付き合わせちゃってごめんね」
「いや、全然気にしなくていいよ。代わりに俺は隣のたこ焼きでも買おうかな」
そう言って榎本と一旦別れて俺はたこ焼き屋の屋台の列に並ぶ。
順番が回ってくると様々な種類のたこ焼きがあることが分かったがここは無難に普通のやつにした。
こういうのって冷静に考えたら絶対高いけど祭りだと気にせず買っちゃうんだよなぁ。
焼きたてのたこ焼きを持って榎本と合流する。
榎本も無事買えたようで大きい綿あめを持っていた。
とりあえず優たちのところに戻ろうかと考えたが近くで食べてから向かうことにした。
近くの座れそうなところに腰を下ろしたこ焼きを一口。
「あ、おいしい」
「お祭りで食べると何でもおいしく感じるよね。綿あめなんて夏祭りくらいでしか食べないから……」
そうだね、と同意しようと榎本を見るとものすごく幸せそうな顔で綿あめを食べていた。
中々見ない榎本の様子に少しドキッとしてしまう。
それにしてもここまで幸せそうな顔で食べているなら離脱して買いに来た甲斐があったな。
「おいしそうだね」
「うん、おいしいよ。一口いる?」
あまりにも榎本が美味しそうに食べるものだからつい口に出てしまった。
榎本も俺が少量なら大丈夫って言ったのを覚えていたのか一口分ちぎって聞いてくる。
「あ、ごめん。私が触ったやつは食べたくないよね……」
そう言って榎本が慌てて手を引っ込めようとする。
これで断ると榎本が触ったから食べたくないと言ったも同然じゃないか?
それにおいしいそうと言い出したのは俺だ。
痛くないように引っ込めようとした榎本の手首を優しく握りパクリと綿あめを食べる。
「うん、おいしいね。ありがとう」
「お、おいしいなら良かった!」
榎本の顔が真っ赤になったけど大丈夫だろうか?
榎本も祭りでテンションが上がってるとか?
「はい、お返しにたこ焼き1つあげるよ」
屋台の人に榎本と一緒にいたのを見られたみたいでお節介にも爪楊枝を2本つけてくれた。
残っているたこ焼きに刺し榎本の前まで持っていく。
「そ、そんなもらえないよ。値段が全然違うでしょ?」
「そんなの気にしないよ。それともたこ焼き好きじゃない?」
「好きだけど……」
「じゃあ俺が持ってるから嫌とか?」
榎本に使われた戦法をやり返す。
もしこれで本当に俺が持ってるから嫌だとか言われたら泣く自信があるが。
「それは……分かった」
良かった……
榎本は意を決したみたいに爪楊枝に刺さったたこ焼きをパクリと一口。
「どう?」
「おいしいです……」
なんか急に敬語に変わったし顔もより一層赤くなってしまった。
すごく可愛いしおいしいなら何よりだ。
しかしその後榎本が黙りこくってしまったりしどろもどろになってしまって会話があまり続かずそのまま食べ終わってしまった。
「そろそろ優達のところへ戻ろうか」
「そ、そうだね。結構長い間離れちゃったし」
「よし、じゃあ早速……」
Prrrrrrrr……
「あ、仁美からだ。ごめん、少し待ってて」
突然電話の音が鳴り榎本がスマホを取り出す。
「もしもし?うん、今小泉さんといるよ……え?……いやそれはちょっと……あ!待って!」
どうやらいきなり切られてしまったようだ。
何かあったのだろうか?
「どうしたの?何か緊急事態?」
「それが……もう集まるの面倒くさいから改めて花火のときに合流しようって……」
こうして急遽榎本との夏祭りデート?がスタートした。
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