ご褒美を求めて

時はテスト当日の朝。


「優!俺……絶対に榎本さんに勝つぞ……!」

「お、おう」


小泉達也は教室の隅で再び闘志の炎で燃えていた。


「でも今まで一桁を目指すって言ってたのになんで急に榎本さん?」

「こ、向上心を持ってるからに決まってるだろ!?」

「あーなるほど。今まであんまり関わり無かったから気にしないようにしてたけどいざ親しくなると負けるのは悔しいって感じか?」

「う……まぁそうとも言うね」


確かに俺も榎本も順位は学年一桁だが榎本はいつもトップ三に入り俺は五位以上に入ったことはほとんど無い。

同じ学年一桁と言っても俺と榎本の間には少なくない実力差が存在する……!

ちなみに一位はいつも長谷川が独占している。

二位とかなりの差をつけての単独トップだから正直今回のテストでは勝てる気がしない。

いつか絶対に長谷川も抜き去りたいけどな……!


「とにかく俺は今燃えてるんだ……!絶対に榎本さんに勝ちたいんだ……!」

「なるほど。では勝負しますか?」

「え!?」


いきなり後ろから聞こえてきた落ち着いた声。

そーっと後ろを振り返ってみると先ほど勝負を仕掛けてきたであろう榎本と苦笑いをした長谷川が立っていた。

いつの間に!?


「し、勝負?」

「そうです。先ほど小泉さんは私に勝ちたいと言ってましたが私も絶対に負けたくありませんので」

「なるほど……わかった。勝負の内容は総合順位の高いほうが勝ちでいいよね?」

「ええ」

「それだったら勝った人に負けた人が何かご褒美をあげるっていうのはどう?」


勝負の内容が決まり絶対に負けないと意気込んでいたとき長谷川から急な爆弾発言が投下される。

勝った人は負けた人からご褒美……だと!?

てことは勝てば榎本にあんなことやこんなことをしてもらえるってことか!?

いやいやご褒美なんて榎本が了承するはずが……


「構いません」


いいんかい!

でも榎本がいいなら俺に断る理由は無い。


「俺も構わない。勝てばいい話だしね」


真面目な榎本が勝負を仕掛けてくるということは相当勉強して自信もあるんだろう。

それでこそ勝ちがいがあるってもんだ。

ご褒美をかけたテスト闘いが決定した瞬間だった。

やる気もみなぎりテストが始まるまでの僅かな時間も勉強にあてる。

チャイムがなり参考書をしまうが悔いはない。

やれることはやった。


今回は絶対に勝つからな!


◇◆◇


そして迎えた順位表掲載日。

天堂高校では上位五十名の名前と点数が貼り出さられる。

どちらが勝ったか一目瞭然ということだ。


「覚悟はいい?榎本さん」

「もちろんです。小泉さんこそ大丈夫なんですか?」

「問題無い。今回は今までで一番力を入れたからな」

「あの〜一応俺達もいるんだけど……」

「まぁまぁ、勝負してるのは二人なんだし意識するのも当然でしょ〜」


優と長谷川が何か言ってるが今はそれどころではない。

一刻も早く勝負の行方を確認して絶対にご褒美を貰うんだ!

榎本と共に一番上から確認していく。


一位 長谷川仁美 488点


ここまではいつも通り。

問題はここから……!

祈りながら一つ下を見る。


二位 榎本綾香 476点


「やった!」

「そんな……」


届かなかった……のか。

目の前が真っ暗になり思わず膝から崩れ落ちる。

そんな!俺のご褒美は何処へ!?


「今回は私の勝ちですね!」

「く……」


負けたのも悔しいけど榎本のドヤ顔に可愛いと思ってしまうことも悔しすぎる。

テスト前に『勝てばいい話だしね』とか言った昔の俺が恥ずかしすぎるんですけど!?

ああ……ご褒美……


「あのさ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけどさ。よく順位表見てみてよ」

「「へ?」」


優にそう言われもう一度順位表に目を向ける。

するとそこには──


二位 榎本綾香 476点

二位 小泉達也 476点


…………………え?

引き分け?


「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

「そんな……引き分けなんて……」


あーでも負けなかったけどご褒美は貰えないのか……

ちょっと複雑な気分だな……


「二人ともそんなに残念がらなくてもいいのに。そんなに落ち込むなら二人ともがご褒美をもらったら?」


それだ!

長谷川の一声はまさに値千金だった。

負けなかったしご褒美も貰えるなんてまさに良いこと尽くめじゃないか!


「それでいこう。榎本さんはどう?」

「わ、私もそれで構いません」

「うんうん。ハッピーエンドだね!じゃあまずは小泉くんの求める綾からのご褒美を聞こうか〜」


この日のために何がいいかずっと考えてきた。

それで一ついいことを思いついたんだ。


「俺は榎本さんにタメ口で話してほしいかな。ほら、榎本さんって長谷川さんにはタメ口で話してるからさ」

「……わかり……わかった。いいよ」

「うんうん。交渉成立だね!綾の小泉くんから貰いたいご褒美は何〜?」

「えっと……私は……」

「なんでも言ってほしい。俺に出来ることならするから」

「……じゃあ頑張ったって褒めてほしいかな」

「そんなのでいいの?」

「うん」


普通に頑張ったねって言おうとしたら優に耳打ちされる。

ほうほう……いやそれやったら引かれるやつじゃ……

まぁこれやったら榎本が喜ぶって優が言うんだから信用してやってみるか。

もし引かれたら全責任を優に被せて俺は生き残ろう。

そう決心してそっと榎本の耳に口を近づけてささやく。


「よく頑張ったね。綾香はすごい子だ」

「!?はぃぃ……」


(やるじゃん!)

(褒めてもらえて良かったね、綾!)


二人の青春を保護者のように見守る二人であった。

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