戦いの始まり
時は一週間前。
「なぁ達也。俺……フラれたんだ」
「は……?」
みんなが下校していって俺と優しか残っていない夕焼けに照らされた静かな教室で優が俺にそう伝えてくる。
「お前がフラれるとか珍しいな。相手は誰なんだ?」
優から言ってきたってことは触れてほしくない話題ってわけでもないだろうし幼い頃からの付き合いな俺たちはそもそも遠慮するような間柄じゃない。
「榎本さんだよ」
「へーあいつか。好きだったのか?」
「割とね。少なくとも遊びではなかったよ」
優はチャラくて女の子と一緒にいるのをよく見るし付き合ったと報告される事も多い。
だけど優はチャラくてもクズではないから本気で好きな人としか付き合わない。
今回も遊びでは無いだろうとは思ったけど。
それにしても榎本ね。
あいつ男子に向ける目が冷たすぎて少し苦手なんだよな。
「榎本って男嫌いとして有名だろ?どこを好きになったんだよ?」
「うーん……顔?」
「割と単純な理由だな。そんな事女子に言ったら怒られるぞ?」
口にはしないけど正直顔で選んでいない事を祈ってた。
あんなに顔だけに寄ってくる女子たちは嫌だと俺と語り合ったのに……
「お前多分誤解してるぞ」
「何を誤解してるんだ?俺は今お前に対する評価が絶賛急降下中だぞ?」
「まぁまぁ一度話を聞いてくれ」
仕方ないから聞いてあげようじゃないか。
俺は黙って首を縦に振る。
「あれは少し前の話なんだけど」
そう言って優は語り始める───
あの日、俺はちょっと用があって外出したんだけどその帰り道に公園の近くを通ったとき榎本さんがベンチに座ってるのに気づいたんだ。
それで榎本さんが学校で見たこともないような穏やかな優しい顔をしてたからそっちを見ると小さな子どもが犬と一緒に走ってたんだよ。
それで『この人は凄く優しい人なんだな』って思ったんだ。
「─────というわけでそこから気になりだして気づいたら好きになってたんだ」
なるほどね。
それにしても榎本の学校で見たこともないくらい穏やかな顔って全く想像が出来ないんだけど。
「そういう理由だったのか。疑って悪かったよ」
「別にいいよ。紛らわしい言い方したのは俺だし。なぁ達也。それよりお前にお願いがあるんだ」
優は真剣な目で俺を見てくる。
「なんだ?俺にできることだったらなんでもいいぞ」
いつも世話になってるし俺に出来ることでなら最大限幼馴染のお願いを聞くのは当たり前だ。
どうせ「フラれたからアイス奢ってくれ〜」とかそんな感じだろ。
幼馴染歴11年の俺をなめるな。
「榎本綾香を……オトしてほしい」
「はぁ……?えっ!?何言ってるんだお前!?」
幼馴染歴11年の俺もびっくりだぞ!?
なんてことをいきなり言い出すんだ俺の幼馴染は……
「えっと……それは惚れさせろって意味?」
「ああ。そうだ」
何言ってんだこいつ。
自分が失恋した相手を友達に惚れさせて欲しいとか言ってることヤバすぎだろ!
「うん……なんで?」
「俺が今回フラれたのは男として、人間として未熟だったのか。それともただ単に榎本さんが男嫌いで男子は全員受け付けなかったのか。それを知りたいからだ」
うーん、俺は間違いなく後者だと思うけどな。
榎本の男子を見る目はやばい。
もはや絶対零度の冷たさを持ってるんじゃないかっていうくらい男子に対して話しかけるなオーラを放っている。
てかそんな理由に俺を巻き込まないで欲しい。
「お前は俺なんかよりずっと努力してるしかっこいいやつだよ。お前でもダメなら2人仲良く失恋仲間になれるしお前が榎本さんをオトせたら素直にお前すげぇなって思ってすっぱり諦められる」
「そうは言われてもなぁ……人の心を弄ぶようなことはできないだろ?」
俺の言葉に優はニヤッと笑う。
「なんだ自信がないのか?俺は達也なら出来ると思ったんだけどな〜」
「……なんだと?」
「別に〜?やっぱり恋愛初心者には難しいかな?」
「やってやろうじゃねぇか!」
くそ……
俺が負けず嫌いなのを分かって言ってやがるな?
ただ受けたからには俺のプライドにかけて絶対にやってやろうじゃないか!
「お前ならそう言ってくれると思ってたよ」
「そうと決まれば家で作戦練ってくるわ!先に帰ってるな!」
カバンを肩に掛け教室を飛び出す。
「頑張れよ……達也」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます